はじめに
それは世代を超えて受け継がれてきた、職人たちの情熱に包まれた神秘的な世界です。日本の工芸には、先人たちが築き上げた技術の層が織り重なっているだけでなく、未来への想いや哲学が込められています。
卓越した技術や技巧を誇る日本の工芸は、無数のアーティストやデザイナーにインスピレーションを与え続けてきました。そこに息づくのは、自然の恵みへの敬意と、持続可能なものづくりへの深い意識です。その独自の文化と工芸の遺産を守り続ける日本に、私は強く惹かれずにはいられません。
日本とのつながりは、私にとって本能的なもののように感じます。まるで前世で日本人だったかのような、そんな不思議な感覚があるのです。私は、織りの技術や染色の作業に宿る儀式のような所作だけでなく、文化全体に根づく「心を込める姿勢」に惹かれているのだと思います。日本の日常に息づく、無駄を削ぎ落としたシンプルさとそこに込められた深い意味。初めて日本に訪れた2017年以前から、それらの存在をなぜか懐かしく感じていました。
新しさ
日本と深く関わるきっかけを得たのは、大学時代のことでした。インド出身の学生としてインターンシップに参加するのは簡単な道のりではありませんでしたが、この経験は私にとって、人生でもっとも貴重な出来事のひとつとなりました。
私は京都の「
JoiRae テキスタイルスタジオ」でデザイナーの見習いとして、フェルト作りや草木染めを学ぶとともに、日本の習慣や文化の繊細さに触れる機会を得ました。
そもそも私が日本に興味を抱いたのは、グローバリゼーションについて考えていたときでした。これは西洋の影響を色濃く受けていますが、「なぜ東洋の文化が世界の中心になることはないのだろう?」という疑問が頭に浮かんだのです。たとえば、日本やシルクロードの文化的な遺産が、未来への革新的なアイディアとともに世界に広がる光景を想像しました。そこから、日本の文化や工芸への関心がさらに深まり、学問的な研究へとつながっていったのです。
日本での滞在期間は限られていましたが、文化や織物の伝統に対する絆が確かに心に刻まれました。帰国後は、日本の織物や衣服、文化、芸術、工芸についての研究に没頭しました。
そしてその情熱が再び私を日本へ導いてくれました。2023年の秋、国際交流基金のフェローシップを獲得し、日本の織物文化への理解をさらに深める機会を得ることができたのです。フェローシップでは、特に友禅染めを中心に、日本の染織技術について研究を進めました。
私が友禅という独自の技法に出会ったきっかけは、着物という存在に魅了されたことにあると思います。もともとデザインの実践の中で、インド特有の糸を使って着物作りに挑戦していました。その際に使ったのが「カラコットン」と呼ばれる糸です。これは、インドの職人コミュニティによって手紡ぎされる有機栽培の綿で、雨水で育つ自然に優しい素材です。
このような繊細な手紡ぎの糸を使い、地元の手織り職人たちと作品を作る過程で、「もったいない」という考え方、つまり「ゼロ・ウェイスト(無駄を出さない)」に基づくデザインの可能性を探ることができました。
着物は反物の幅を無駄なく生かす構造を持ち、この点がインドの伝統的な衣服の作り方にも通じています。限られた素材を生かしきるこの仕組みは、持続可能なデザインの象徴のように感じました。
その中で、私は手描きで布にアートを表現する技法に強く関心を抱くようになりました。そして、染料を繊維の奥深くまで浸透させ、繊細な絵画のような表現を可能にする「友禅」の技法を知ったとき、その奥深さに心を奪われたのです。
