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1978年の空気をまとう男──29歳・加藤有名が語る“昭和スーツ”の自由と粋

2025.11.12
かつての昭和の街角を彩ったスーツやコート。それらを“時代の美学”として再び体現しているのが、加藤有名さんだ。ショート動画やYouTubeでは、29歳という若さでありながら、昭和のサラリーマンを思わせるスーツスタイルとその高い再現度が話題を呼んでいる。
彼が再構築するのは単なるレトロではなく、「1978年」というその一点に宿る感性。70年代後半は、社会の熱気、人々の装い、街のムード──そのすべてがファッションと響き合っていた時代だ。
なぜ彼は今、この1978年という時代にこだわり続けるのか。加藤さんの哲学を通して、粋な“昭和スタイル”が現代に問いかける意味を尋ねてみた。

PROFILE

加藤 有名(かとう ゆうめい)

29歳。コメディアン。

昭和カルチャーを軸に、SNSでコント動画を発信している。また、ポップアップやトークイベントを通して昭和と現代の感覚を混ぜるような表現をしている。

Instagram YouTube

横山やすしと岩井ジョニ男に憧れて

取材当日、加藤さんはベージュのスーツにゴールドの時計とブローチ、鼈甲のメガネという装いで登場した。実際にお会いすると、映像で見る以上に彼の持つ柔らかな雰囲気が加わることで、全体のスタイルにはどこか華やかさと品の良さが漂っていた。いつ頃から、昭和のスーツスタイルに魅了されるようになったのだろうか。
「最初のきっかけは、2010年代後半頃にあった“80年代ブーム”のような流れですね。
その時期に、ビートたけしさんがFICCE(フィッチェ)のセーターを着ている姿や、上岡龍太郎さんがDCブランド風のスーツを着こなしている80年代当時の映像を見たのが印象的でした。
昔の映像を振り返ると、立川談志さんは70年代的な“昭和の親父”スタイルで、それがまた渋くてかっこいいなと思って。そうした流れの中で、徐々に昭和のファッションに興味を持つようになりました。
最初は、金子功さんのカールヘルムやパパス、ニコルといったブランドの、少しゆったりした80年代カジュアルを集めていましたね。つまり僕の入り口は、80年代後半のDCブランド文化あたりになると思います」
当時の加藤さんは、まだ20代前半。そこから“1978年のスーツスタイル”へとたどり着くきっかけになったのは、意外にも漫才だったという。
「僕、ちょっとミーハーなところがあるんですよ。流行っているものを追いかけるタイプで。当時は80年代のゆったりとしたシルエットが流行していましたが、次第に“70年代のスーツ”がまた注目されはじめているなと感じていました。
たとえば、グッチが2020年頃に発表していたコレクションなんかも、明らかに70年代テイストで。フレアパンツを街で見かける機会も増えてきて、『あ、これは70年代のスーツを集めたほうが面白いかも』と思ったんです。
当時のスーツって本当に独特のシルエットで、くびれた腰回りから裾に向かって広がる──まさに“フレアスタイル”ですよね。
それに加えて、僕にとって大きかったのが“芸人”という存在です。
その頃、自分でも漫才の活動をしていて、SNSでもそうした発信をしていたので、“芸人としての自分”という意識が強かったんです。
昭和レトロな芸人像を表現するなら、誰をモデルにしようかと考えたとき、真っ先に浮かんだのが横山やすしさんや岩井ジョニ男さんのレトロなスーツスタイルでした。
昭和の芸人といえば、やっぱり“やっさん”のイメージが強いですよね。横山やすしさんを知らない世代でも、どこかで見たことのある“あのタイトなスーツスタイル”を思い浮かべるんじゃないかと思って。
そういう意味でも、『70年代のスーツっていいな』と思うようになったんです」

日本製へのこだわりと、完璧でない着こなしの美学

そんな彼がスーツを選ぶうえで特に大切にしているのが、「日本製であること」へのこだわりだ。
「基本的に僕は、日本製のスーツを選ぶことが多いですね。
たとえば、Mr.Van(ミスター・ヴァン)のようなウエストを絞ったシルエットのブランドが好きです。今日着ているのはリサイクルショップで手に入れたD’URBAN(ダーバン)などのスーツで、70年代にフランスの俳優アラン・ドロンがテレビCMに出演したことで一躍有名になったブランドです。
裏地には“岡田”というネームが入っているんですが、これは当時このスーツを仕立てた人の名前でしょう。当時のオーダーメイドスーツには、持ち主の名前を刺繍で入れるのが一般的だったんです」
男性のスーツは“サイズ感が命”とも言われるが、普段はどのように選んでいるのだろうか。
「よく『サイズぴったりですね』と言ってもらうことがあるんですが、髪型や全体の雰囲気でそう見えているだけで、実際はそこまでジャストサイズではないんです(笑)。スーツはだいたいリサイクルショップかフリマアプリで探しています。暇さえあれば掘り出し物をチェックしていますね。
選ぶときは“日本製”であることを重視しますが、サイズ感にはあまりこだわりません。極端に小さすぎたり大きすぎたりしなければOK、という感覚です。
というのも、当時のスーツはLサイズでも今の基準よりかなり小さめなんです。
おそらく当時の男性の体格自体が今より小柄だったんでしょうね。僕自身も痩せ型なので、昔のサイズでも意外と着られるんです。
袖の長さが合わないこともありますが、それも含めて全体のバランスで調整します。
たとえば、シャツも小さめを選べばまとまりが出て、手元に時計を合わせれば袖が多少短くても気にならない。少し工夫するだけで、完璧なサイズでなくても“着こなせている”ように見えるんですよ」

“中ぶらりん”な時代が生んだ、自由と余白の美学

ファッションを通して出会った“昭和のスーツスタイル”。その背景には、70年代後半特有の日本ならではの独特な空気感が深く関わっているという。
「僕が昭和のスーツを集めているなかで、たまたま“1978年製”のオーダースーツを古着で見つけて購入したのが、“1978年”をテーマにするきっかけでした。あとから振り返ると、この年にこだわって本当によかったなと思うんです。
というのも、70年代後半ってちょうど時代の“はざま”なんですよね。60年代や70年代前半にはまだ政治的な熱気があり、80年代に入るとバブル景気で一気に華やかになる。
でも、78年や79年あたりはそのどちらでもない中間期。社会全体が少し落ち着いて、個人の趣味や楽しみが芽生えはじめた時代なんです。そんな“中ぶらりん”な空気感に惹かれて、掘り下げていくうちにどんどん面白くなっていきました」
そんな“1978年のスーツ”の魅力について、加藤さんはこう語る。
「やはり“スーツの自由さ”だと思います。現代だとマナーを気にする人も多いですよね。
でも70年代の雑誌を見ていると、その感覚がまったく違う。スーツの着方が本当にバラバラなんです。
今の基準で言えば、シャツが出ていたり、袖がツンツルテンだったり、サイズ感がおかしかったり(笑)。ジャケットとシャツの間に襟付きのセーターを挟んだりして、“なんでもアリ”な感じがあって。当時のファッションには、“ファッションなんだから、好きにやっちゃえ!”という勢いを感じます。
たとえばショーケン(萩原健一)さんも、『傷だらけの天使』でビギのスーツを着ていたのですが、開襟シャツの下に白いTシャツを重ね、ダブルのクラシックなスーツを合わせるという、今なら“ルール破り”のような着こなしをしていた。でも、それがすごく自然でかっこよかったんです。
服なんだから、そのくらい自由でいいじゃないか。そんな空気が70年代にはあったと思います」
その一方で、70年代後半には日本人らしい真面目さもまだ残っており、“自由さと誠実さが混ざり合う感じ”が面白いと加藤さんは続ける。
「80年代のようなカラフルで勢い任せのノリとはまた違う、“これからの時代を迎えるワクワク感”が70年代後半にはあったと思います。
スーツもその象徴で、70年代のものは肩にしっかりボリュームがありながら、ウエストは絞っていて。タイトなのにどこかゆるい、ちょうど中間的なバランスなんですよね。60年代ほどストイックでもなく、80年代ほど派手でもない。
“出すところは出して、締めるところは締める”。そんな粋なかっこよさがある。そして、どこかにまだ“昭和の男らしさ”というか、生っぽさが残っている。それが、僕が1978年という時代に惹かれる一番の理由かもしれません」
加藤さんが体現する“昭和のスーツスタイル”は、単なるおしゃれではなく、まるでひとつのエンターテインメントのようだ。再現性のある“共感できるファッション”でありながら、どこかに“笑ってもらいたい”という遊び心も込められている。
最後に「10年後も同じ格好をしていますか?」と尋ねると、「さすがに変わっていると思います」と笑みを浮かべた。ファッションにも笑いにも真剣に向き合う加藤さんの姿勢に、これからも注目していきたい。

Text by Tajimax

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