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なぜ人はヴィンテージTシャツに熱狂するのか? 原宿の老舗「LABORATORY®」に聞く、ロックTの真価と未来

2025.08.14
原宿のとんちゃん通りに佇むヴィンテージショップ「LABORATORY®(ラボラトリーアール)」。コンセプトは「富と名声を捨てたロックミュージシャンが、旅先の廃墟で古着を売り始めた」という架空の物語である。
2003年に「BerBerJin」の姉妹店として誕生し、のちに独立。そこから23年にわたり、唯一無二の世界観で進化を続けるこの店で、時代を超えて愛されるロックTシャツの“今”を知るべく、同店のディレクター前田嘉之さんにお話を伺った。

PROFILE

前田 嘉之(まえだ よしゆき)

LABORATORY® ディレクター

始まりは、あるロックミュージシャンについての空想の物語

LABORATORY®では、ヴィンテージのロックTシャツを中心に幅広いアイテムを扱っている。本気でロックTシャツを探すならLABORATORY®と言われるほど、数々の貴重なTシャツが店内に揃うが、その理由はシンプルである。
「私自身がヴィンテージに関わるなかで、特に影響を受けたのが70年代のロックミュージシャンのスタイルでした。彼らが着ていたTシャツやレザージャケット、ベルボトム、アクセサリー、そうしたアイテムに強く惹かれていたので、ショップの立ち上げ当初から自然とロックTシャツを中心に取り扱ってきましたね」
LABORATORY®では、Tシャツを単なる“グッズ”としてではなく、“動くアーカイブ”のように思想や美学が刻まれたシンボルとして扱っている。ロックTの歴史は、ただのファッションでは語れないと前田さんは話す。
90's Misfits
「Tシャツって、“NO”という姿勢を言葉なしで伝えることができるんですよね。たとえば、ピストルズの『God Save the Queen』のTシャツは王室への痛烈な風刺で、カート・コバーンが着た『Corporate Magazines Still Suck』のメッセージTシャツは、メディアへの皮肉でした。
パンクやグランジが扇動していた時代、Tシャツは“武器”でした。ただのファッションじゃなく、『自分はここにいる』『これは自分の信念だ』と示すための手段だと思います」
音楽への思いや思想、社会への不満。そういったものを言葉ではなく、服で訴える。ロックTとは、体制や常識への“反抗”を可視化する手段だったのである。

セレクトの基準は「物語を感じるか」どうか

時代が進み、SNSや動画で誰もが自由に表現できる今、彼らの時代に比べると、その重みは少し薄れたかもしれない。しかし、それでも“信念を持ってロックTを着ている人”の姿勢は、やはり伝わってくる。
LABORATORY®のセレクトの基準は「物語を感じるか」どうかだ。
70's Yoko Ono (not for sale)
取り扱われているロックTは、単なる希少性や古さだけで選ばれているのではない。重視しているのは、そのTシャツが“どんな時間を生きてきたか”という点にある。それは、現在の価格高騰で話題のヴィンテージTシャツとは違う、もっと奥深いところに価値が根付いていることを意味する。
「古着って、ただの服じゃなくて、誰かの記憶とか気持ちまで染み込んでいるような気がするんです。プリントのかすれ具合とか、色あせた感じ、タグのデザインや縫い方のクセとか…全部にその服の『時間』が刻まれているというか。どんな場所で着られて、どんな風に過ごしてきたのか、そういう温度みたいなものが残っているんですよね。
ロックTに限らず、そういうところが古着全体の魅力だと思っていて。単なるモノじゃなくて、人の記憶や感情まで染み込んでいるからこそ、惹かれるんだと思います」
タグのデザインや縫製は時代を映す小さな鏡のようなものだと、前田さんは続ける。たとえばHanes、Screen Stars、Giantなど、年代ごとに特有のタグがあり、そこには当時ならではの空気が宿っているという。
「ボディによって素材の混率や厚み、シルエットもまったく違うので、好きな形に出会えるとちょっとうれしくなりますね」
90's The Prodigy

ロックTのこれからを“紡いでいく”

LABORATORY®が考えるロックTの面白さは、「誰でも着られるが、どう着るかで意味が変わる」という点にある。無音化していく現代のファッションにおいて、ロックTは今なお“声”を持つ数少ないアイテムなのだ。
「ロックTは、スタイルに“物語”を添えるような存在だと思っています。今のファッションって、どんどん無音化しているというか、語らない服が増えている時代だと思っていて。でもロックTには“声”がある。着ることで、その人の背景や温度がにじみ出るので、文脈をまとうことの面白さを、もう一度思い出させてくれる存在だと思います」
近年は、ヴィンテージブームの勢いで、Z世代の若者にもロックTが新しいファッションとして取り入れられている。
「音楽は『知らないけどカッコいい』という感覚から入って、そこから音楽自体にも辿り着いてくれたら、それがいちばん素敵な流れですよね。Z世代には彼らなりの距離感や自由さがあって、そういう新しい目線が、ロックTにまた違う命を吹き込んでいる気がします」
しかし、ヴィンテージTシャツ人気が再燃する一方で、偽物が急増しているも問題もある。
「Tシャツはジーンズのようにきちんとした年表や仕様書があるわけではないので、見分けるには“本物”をどれだけ見てきたかという経験値しかないんです。若い世代にこそ、たくさんの“本物”のロックTと出会ってほしいですね」
最近ではさまざまな場所でロックTを見かけるが、“本物”と出会えるのは信頼できるショップだけである。
「せっかく高いお金を出して手に入れるのであれば、やっぱり本物に出会ってほしいし、間違った情報や見せかけの価値に振り回されてほしくない。そのためにも、信頼できる老舗や、確かな知識と審美眼を持ったショップで選ぶことをおすすめしますし、LABORATORY®︎も、そういう場所であり続けたいと思っています」
原宿のとんちゃん通りに佇むLABORATORY®の店舗
螺旋階段を下りると、その先に待っているのは、また新たに広がるヴィンテージTシャツの世界。 オープン当初から変わらないというこだわりの内装にも驚かされるが、それ以上に目を引くのは、壁一面に並ぶヴィンテージTシャツの数々。 ロックTシャツはもちろん、ディズニーなどのヴィンテージTシャツも豊富に揃っており、レディースも充分に楽しめるラインナップとなっている。
LABORATORY®がこれから目指すのは、Tシャツを“売る”のではなく、“紡ぐ”ことである。知識よりも感性。今の世代なりの自由な視点が、新しいカルチャーを育む。そして何より、「ロックTという文化を一過性のブームで終わらせるのではなく、丁寧に未来へと繋いでいきたい」という強い思いがあるのだ。
最後に、アメリカでの買い付けの際に何度もあったという、次のような素敵なエピソードを前田さんが語ってくれた。
「昔アメリカで買い付けをしていた頃、頻繁にヴィンテージのロックTを着ていたのですが、すれ違いざまに知らない人から声をかけられることがよくあって。『Amazing!』『I love your shirt!』みたいなリアクションをされるんです。なかでもオジー・オズボーンのTシャツは反応がダントツでよかったですね(笑)」
国境も言葉も超える一枚のTシャツ。その力を信じ、LABORATORY®は今日も“音楽の記憶”を紡ぎ続けている。

ヘッダーキャプション:90's Cradle of Filth

Text by Tajimax

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