

Articles
7〜10年使えて、最後は分解できる! Bioworks(バイオワークス)がPLAの“弱点”を克服した技術
植物由来のポリ乳酸(PLA)は、耐熱性や耐久性の低さから、衣料用途には扱いにくい素材とされてきた。Bioworks(バイオワークス)の「PlaX™(プラックス)」は、独自の植物由来添加剤でその弱点を補うことに成功し、7〜10年の耐用年数と、使用後の生分解やリサイクルの両立を目指している。「長く使う」と「循環させる」を、どのような技術で実現したのか。同社CTO・寺田貴彦さんに話を聞いた。
PROFILE

寺田 貴彦(てらだ たかひこ)
Bioworks 常務取締役執行役員CTO
京都大学で高分子化学を専攻。卒業後、パナソニック(旧・松下電器産業株式会社)に入社し、研究開発に従事。パナソニック退社後、近畿経済産業局を母体とする産学官連携の研究プロジェクトに研究者として参画。ポリ乳酸(PLA)の合成法開発に携わる。
その後、バイオベース株式会社を設立し、ポリ乳酸の改質へとつながる分子構造設計技術を確立。2015年Bioworks株式会社を設立し、現在は取締役常務執行役員CTOとして、研究開発および技術戦略を統括している。
石油より豊富な原料を探して、PLAに行き着いた

PLAの原料となる乳酸は、サトウキビなどに含まれる糖やデンプンをもとに作られる。その原料となるのが「グルコース」だ。グルコースは、地球上に豊富に存在するセルロース(植物の主成分)の構成単位でもある。
「グルコースは地球上に豊富にあり、石油よりもたくさん採れる資源です。持続可能な次世代素材を模索するにあたり、今後この資源が枯渇することもないだろうということで、この物質に注目しました。開発当初は、他のバイオマス素材に比べて工業原料として比較的安定し、安価であったことも選択理由のひとつです」
将来的にも安定して確保できる資源を使いたい。その考えが、PLAを選んだ原点にあった。一方、PLAを実用的な素材へと変えることになる植物由来添加剤の技術は、当初から狙って生まれたものではない。きっかけは、まったく別の研究開発から生まれた「副産物」だったという。
「もともとは、クッションや接着剤などに使われるウレタン系の柔らかい材料を開発していました。その分析の過程で得られたものに着目し、結晶化促進というアイディアに繋げていったのです。当初の主たる狙いとは違うところから得られた発見でした」
この発見が、PLAの弱点を克服する鍵となった。耐熱性は従来のPLAの50℃前後から130℃まで引き上げられ、110〜120℃の分散染料による染色にも耐えられるようになった。
ポリエステルやナイロンには物性・コストの両面でまだ及ばないが、製品として使えるレベルには達した。さらにその実用性は、耐熱性だけではない。原料の乳酸が持つ抗菌効果により、生乾き臭や汗臭の原因菌の繁殖を抑えるという性質も備える。
原綿・原糸は「エコテックス®スタンダード100」の製品クラスⅠ(乳幼児用製品)を取得しており、肌に直接触れる用途にも使用できる。製造時のCO2排出量も、石油由来のポリエステルと比べ、短繊維で50%、長繊維では70%も少なくなるという。
壁は研究室ではなく、工場にあった

「自由な発想で研究開発している分には、壁にぶち当たったことは正直あまりありません。どちらかというと、そうして生まれたアイディアを実用化する段階で多くの困難に直面しました」
新素材のために専用の機械や金型が用意されるわけではない。既存の設備で、いかに実用化に繋げるか。条件調整で埋まらない差は、材料そのものを変えて対応するしかなかった。
2007年の開発着手から繊維として形になる2016年まで、現場の設備を借りて条件を詰める日々が続いた。ラボで得られた設計指針を、現場での検証を重ねながら量産可能な条件へと落とし込んでいった。
サプライチェーンも工夫の産物だった。原料のポリ乳酸樹脂はタイで、品質を左右する添加剤は日本で製造する。技術の保全とコストダウンを両立させるため、同社は「マスターバッチ」方式を採った。日本で高濃度に添加剤を練り込んだ樹脂ペレットを作り、現地でそれを希釈しながら製品にする。
「コーラの原液のようなものです。濃縮したものを作っておいて、それを現場で希釈しながら糸を作る。これにより、技術保全と同時にコストダウンも図っています」
耐久性と生分解性をどう両立した? 鍵は「加水分解」の制御

長く使うための「耐久性」と、使用後に分解できる「生分解性」。一見相反する2つの性質を両立させる鍵となったのが、「加水分解」の制御だ。
「『PlaX™』を含む生分解性プラスチックの分解メカニズムは、いきなり微生物に食べられるわけではありません。まず水と反応して分子が短くなる『加水分解』が起こり、ある程度短くなった状態から、初めて微生物による『生分解』が始まります」
2段階のうち、微生物の活動である生分解を直接コントロールすることは難しい。そこで同社は、前段階の加水分解を添加剤で制御する方法をとった。
「第1段階の反応である加水分解を、我々の方で制御しています。これにより、通常の使用環境では加水分解が起こらないように設計しています。その上で、使用後に堆肥化するような特定の環境に置かれた場合にのみ加水分解が進み、生分解されるレベルになっていきます」
分解を抑えるのは添加剤の働きだが、製造時の水分や温度も、他のプラスチック以上に厳密に管理する。耐用年数は用途に応じて調整することも可能だ。使用中は必要な耐久性を保ち、役目を終えた後は特定の環境下で分解へと導く。「PlaX™」は、素材が分解し始める条件を制御することで、耐久性と生分解性を両立させているのだ。
気化させて回収する──分別しないリサイクル
「PlaX™」は、生分解とは別にケミカルリサイクルの技術開発も進めている。アパレル製品をリサイクルする際、大きな障壁となるのが「分別」だ。衣服にはボタンやファスナー、染料、異なる繊維など、さまざまな素材が使われている。Bioworksが開発を進める技術は、この分別の工程そのものを減らせる可能性がある。
使用済みの「PlaX™」に触媒を加えて加熱すると、構成単位である「ラクチド」に分解される。ここで利用するのが、ラクチドの「昇華」という性質だ。
「ラクチドは、ドライアイスが固体から直接気体になるように、昇華する性質を持っています。この性質を利用すれば、たとえボタンや他の素材、染料が混じっていても、分解して気体になったラクチドだけを回収できる。ケミカルリサイクルを行いながら、同時に不純物の選別・分別もできるのが、この技術の最大の特徴です」
回収した気体を冷やせば高純度のラクチドに戻り、再び「PlaX™」の原料として利用できる。綿などとの混紡品については、加水分解によって「PlaX™」だけを粉状にして分離した後、回収する手法も確立している。
ただし、このケミカルリサイクル技術は現在のところまだラボレベルにある。基本技術は確立しているものの、実用化に向けてはスケールアップや連続生産の検証が次の課題となっている。
さらにPlaX™は、繊維だけでなくボタンやジッパーなどにも成形できる。衣服を同一素材で構成する「モノマテリアル化」が進めば、リサイクル時の分別工程をさらに減らせる可能性がある。技術の実用化と並行して、使用済み製品の回収方法についても実証が進められている。
「PlaX™」は次に何を目指す? 原料転換とリサイクルの実用化

将来は残渣など非可食セルロースへの移行を目指す。
耐熱性や耐久性の低さというPLAの弱点を克服し、7〜10年の使用を想定しながら、役目を終えた後の生分解まで可能にした「PlaX™」。現在はさらに、非可食セルロースへの原料転換と、使用済み素材を再び原料へ戻すケミカルリサイクルの実用化に向けた検証が進められており、持続可能な未来を担う原料として期待が高まっている。












