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“綿超え”機能素材「Policott」を生み出した、田村駒の次世代ポリエステル開発の裏側
綿のような風合いと高い機能性を両立した次世代ポリエステル「Policott(ポリコット)」は、クラウドファンディングで多くの支持を集める人気素材となった。
その始まりは、約10年前に開発担当者が抱いた「ポリエステルの可能性を切り拓きたい」という思いだった。
今回、田村駒株式会社の岡義樹さんへ取材し、ひとつの素材がスポーツウエアの常識を超え、ファッションの領域で新たな価値を生み出すまでの10年にわたる試行錯誤の軌跡を伺った。
PROFILE

岡 義樹(おか よしき)
田村駒株式会社 第2事業部第2部2課
震災特需の先に見えた“飽和”と新たな挑戦
2011年4月、東日本大震災が発生した直後だった。社会全体が節電に取り組むなか、アパレル業界では吸水速乾や接触冷感といった、機能素材への需要がかつてなく高まっていた。田村駒で合成繊維を扱う部署に所属する岡さんも、この特需の渦中にいたひとりだ。しかし、その勢いは約2年で終息した。市場は一転して在庫過多となり、生産調整を余儀なくされることになった。特需の熱狂が冷めやらぬなかで、岡さんはポリエステル100%素材に、ある種の「飽き」を感じ始めていた。スポーツやユニフォーム分野では高い評価を得ていたものの、普段着としては、その機能性と引き換えに失われているものがあまりに多いと感じていたのだ。
「それまでの弊社の素材は、スポーツ向けとしては高機能でしたが、一方で普段着として使えるかといえば、『テカテカして化学繊維っぽい見た目や風合い』『着心地は綿に及ばない』という印象でした」
岡さんが語るように、当時の市場は「機能性のスポーツウエア」と「ファッション性の天然素材」に二分されていた。この二項対立の構造にこそ、新たな市場の可能性が眠っているのではないか。自社の強みであるポリエステルを武器に、新市場の開拓に挑むことを決めた。その決意が、次世代ポリエステル「Policott」開発の出発点となった。
ピリング問題を乗り越えた“唯一の選択肢”

試行錯誤していくなかで岡さんが出会ったのは、ポリエステルの「短繊維」から作られた糸だった。当時は市場に出回るポリエステル製品の大半が「長繊維」であるなか、あえて一度綿状にしてから紡ぐ短繊維に注目したのは、天然素材である綿のような自然で柔らかな風合いを生み出せるからだった。
だが、短繊維には「ピリング(毛玉)」という宿命的な課題があった。摩擦によって繊維がけば立ち、絡み合って毛玉になる現象は、特に耐久性が求められるスポーツウエアやユニフォームなどでは致命的な欠点とされる。ファッション性と機能性の両立を目指す上で、この課題の克服は絶対条件だった。
その解決策として白羽の矢が立ったのが、村田機械株式会社の渦流精紡機「MVS(ムラタ・ボルテックス・スピナー)」だ。業界において、MVSで紡がれた糸は優れた抗ピリング性を持つことで広く知られていた。
「我々の世界では、MVSは常識的に知られていました。スポーツウエアやユニフォームの素材として販売するには物性が優れていることが非常に重要なので、この糸を使うのは最初から決まっていたようなものです」
数ある技術の中から選び取ったというよりも、最高の品質を追求した結果たどり着いた必然の選択だった。こうして「Policott」は、綿のような風合いと、スポーツウエアとしても耐えうる物性という、相反する要素を両立させるためのヒントを得た。
風合いか、機能か。染色温度5℃のせめぎ合いで見出した最適解

最高の糸を選定しても、開発はまだ道半ばだった。次に待ち受けていた最大の難関は、生地を染め、仕上げる「加工」の工程である。ここで、再び「風合い」と「機能性」のトレードオフという壁が立ちはだかった。
「風合いを良くしようと、たとえば柔軟剤などを多く使うと、今度は吸水性を阻害してしまいます。そこのバランスをうまく取るために、何度もやり直しをした記憶があります」
試行錯誤を繰り返すなかで、岡さんが着目したのは「熱」だった。一般的にポリエステルは高温で染色されるが、同じ手法では「Policott」の繊細な風合いが損なわれ、硬くなってしまうことが判明した。常識を取り払い、あえて染色温度を通常より下げることで、風合いを保てないかと考えた。
そこから始まったのは、まさに執念ともいえる地道な検証作業だった。岡さんは、考えうる最適なバランスを見つけるため、加工を委託する工場の技術者と膝を突き合わせ、粘り強く打ち合わせを重ねた。
「だいたい5℃単位で複数の生地を同時並行で作っては、その機能性だったり風合いの出具合だったりを一つひとつ確認していきました」
このわずか5℃をめぐるせめぎ合いこそが、最適解を見出す上でのブレイクスルーとなった。風合いやストレッチ性、機能性まで、そのすべてが紙一重のバランスで成り立つ「Policott」の品質は、こうした現場での緻密な検証によって支えられている。
10年越しのアップデートを経て、「完成形」へ

「Policott」は、一度完成したら終わり、という製品ではなかった。むしろ、世に出てからが本当の開発の始まりだったと岡さんは振り返る。最初のリリースから10年、その間も細かなアップデートを繰り返し、理想の品質を追求し続けてきた。
「当時は90点、95点だと思って世に出していましたが、日々『もう少しこうしたい』という想いが生まれていきました。この10年の間に本当に少しずつアップデートを重ねて、今、Makuakeで販売したTシャツのクオリティは、ある程度は最終形まで来られたかなと感じています」
まさに技術の集積体といえるだろう。綿のような風合いを生む短繊維をはじめ、透けを防ぎ、UVカットや遮熱効果をもたらすフルダル原料、吸水速乾性を高める十字断面糸、さらにピリングを防ぐMVS紡績と絶妙な風合いを引き出す特殊加工など、複数の技術を組み合わせることで「Policott」は完成した。数年前には、原料を石油由来からペットボトルリサイクル原料へと切り替え、品質を維持したままサステナビリティへの対応も実現している。
こうした技術の組み合わせが、「べたつかないさらりとした風合い」「洗濯してもすぐ乾く」「シワになりにくい」といった、ユーザーからの称賛につながっている。
さらなる拡大に向けて

10年かけて「完成形」にたどり着いた「Policott」だが、その進化はまだ止まらない。これまではBtoBでの生地販売が主だったが、Makuakeでの成功を足がかりに、今後は自社ECサイトでの製品販売も計画しているという。
「まずは今の生地を、いかにさまざまな方に手に取ってもらうか。それが第一です。その上で、Tシャツ素材のバリエーションを増やす計画も進めています」
岡さんが見据えるのは、国内市場だけにとどまらない。2027年春夏シーズンに向けて、Kickstarterなどを活用した海外クラウドファンディングへの挑戦も視野に入れている。一個人の「飽き」から始まった物語は、今や海を越えようとしている。10年をかけて完成度を高めた「Policott」は、現在も素材や製品のアップデートを続けている。機能性と風合いを両立する次世代ポリエステルとして、今なお改良を重ねながら進化を続けている。













