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【リレーコラム】取り込まれるものとファッションについて(梅本佑利)

2025.01.24

PROFILE

梅本 佑利(うめもと ゆうり)

作曲家。2002年東京生まれ。伝統的な楽譜と現代のデジタル表現の間で、日本のアニメにおける音声表現、インターネット文化におけるMAD的なサンプリング技法を吸収したマキシマリスティックな音楽性を探求している。作品は、国内外の演奏家、アンサンブル、オーケストラによって演奏され、欧州の音楽祭などで紹介されている。ファッションショーやテレビ番組などへの楽曲提供、ヴィジュアル・アーティストとのコラボレーションも行う。

私は良いものをみると、それを自分の中に取り込み、自分自身にしたいという強い支配の願望に駆られる。香るものは体内に吸い込まれる。響きには耳が傾けられ、美しいものは側に置かれる。ある人々にとって、愛は身体との一体化で区切りを迎える。私にとってファッションは、そんな一体化の欲望を可能にする手段として、あまりに強引で魅力的だ。一体化には力が要る。それはときに愛にも暴力にもなり得る。
芸術家がなにかに出会い、それを自分のものとして扱ったとき、そこにはどのような力が働いているだろう。他者や異文化の意匠を装うこと、人やいきもの、モノを支配するということ。ゆらゆらと掴みどころのない善悪の中、自問自答はおわらない。
Photo by Yuri Umemoto
私は作曲家として、音楽や芸術作品を制作するにあたって、常にその問題に頭を悩ませている。創作において、なにかが「素材」として「取り込まれる」。ヨーロッパの伝統的な芸術の文脈で活動する私は、ときに非ヨーロッパの者として、なにかを外部の世界から持ち込み得る。ある国の、ある文化の、あるコミュニティの表象を、自分たちの芸術に取り込むとき──声はつまみとられ、なぞられ、異なる世界に持ち込まれる。声はサンプリングされ、楽譜として記され、ある特定の世界のために奏でられる。

リンク:梅本佑利 - 萌え²少女 (2022) for piano [w/ score]

取り込むことはファッションとなり得る。どこかの男子高校生たちがラッパーのビーフに口を弾ませ、好きなミュージシャンで自身を表現するように、人々にとっての趣味は、表面的に判断可能な衣(ころも)となり得る。人々は、平気で知りもしないロック・バンドのTシャツを着、無教養のブルジョアはまったく興味のないクラシック音楽のコンサートに出向いて社会的なステータスをアピールする。乗るつもりのないスケートボードの「ポーザー」たちは『THRASHER』のキャップをかぶり、傷ひとつないデッキを買い物かごのように持つ。
何者かになるために飾ること、服を着ること、髪を染めること、音楽を聴くこと、本を読むこと、映画を観ること、スポーツをすること、人との関係を築くこと──それが見せかけの愛でも、なにかのために、強引に取り込んで纏うことができる──大きな本棚の自慢──分厚い小説、読みもしない学術書──威張った大学教授の書斎──上流階級のアクセント、金持ちの家──弾きもしないグランド・ピアノに、良さのわからないアート作品──大きなロゴの入ったハイブランドのTシャツ、見せびらかすための美しい恋人──
取り込まれて、自分のものとなる。つくり手の私にとって、ファッションへの興味深さとは、それが自己表現でありながら、大なり小なりの影響力をもとに模倣され得る特性だ。そして、その繰り返しから挑戦的に逸脱しようとしたとき、人は「つくり」の入り口に立つ。それが私にとっての音楽だった。模倣の営みはフラクタルに存在するが、世界に差異を与えようとすることは、どんなものでも「つくり」と呼び得る。生きることはかならず差異であるから、生きることがつくることだと、ここで陳腐な格言を言い放つこともできる。
私は服装において、模倣することを好む。デザインされた衣服は、ひとつの完成された自己表現、スタイルとして伝達され、そのものの組み合わせが多様な解釈を生む。周知の通り、つくることはなにも一から生み出すことに限らない。神は天地を創造し、象られたものたちは種を蒔く。音楽ならば、つくり手は一般的な意味での「作曲家」に限らず、既存の作品と作品を組み合わせ、構築するディスク・ジョッキー(DJ)のような存在もまたつくり手である。同様に服装においても、既成服を「コーディネート」する私たちの行為は、れっきとした「つくり」と考え得るだろう。一から「ないもの」をつくろうと試みるクリエイター(創り手)と、あるものを組み合わせるコンポーザー(作り手)の間にあるものは、「ないもの」という可能性の深い穴に踏み込む、その深度の違いである。

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