1mm単位でコンセプトを追求 アトリエ小倉染芸の考える、東京手描友禅の魅力とは?
2024.08.26
1mm単位でコンセプトを追求 アトリエ小倉染芸の考える、東京手描友禅の魅力とは?
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吸い込まれるような細かな絵柄、深い色合い。思わず見惚れてしまうほどの品のある作品が、東京都新宿区にあるアトリエ小倉染芸の東京手描友禅の特徴だ。
東京手描友禅は、手描きであるが故にたった1mmの線にまでこだわることができるという。
今回はアトリエ小倉染芸の小倉隆さんにお話を伺い、東京手描友禅の歴史や魅力、作品に込める想いについて伺った。
PROFILE|プロフィール
小倉 隆(おぐら たかし)
小倉 隆(おぐら たかし)

昭和51年東京、新宿区高田馬場に生まれ、平成17年、28歳のころに、父・小倉貞右に師事する。その後は経済産業大臣指定伝統的工芸品伝統工芸士や、新宿ものづくりマイスター「技の名匠」に認定されるなど、手腕を発揮。近年は洋服やワインラベルなどにも東京手描友禅を施し、新たな可能性を追求している。

洗練されていておしゃれな東京手描友禅の特徴とは?

東京手描友禅の歴史について教えてください。
そもそも友禅染とは京都で生まれた技法で、江戸時代の扇絵師・宮崎友禅が描く扇絵を小袖に応用したことから友禅模様が流行し、やがてその模様をあらわす染色技法を友禅染と呼ぶようになりました。
それまでは着物への装飾は絞り染めや刺繍が用いられていましたが、友禅染が開発されたことで装飾に輪郭が生まれ多くの色を使うことができるようになりました。

京都で生まれ広まった友禅染は、やがて参勤交代によって大名がお抱えの染師を江戸に連れてきたことで江戸にも浸透。1800年代にはその技術が根付いていたといいます。
また加賀友禅に関しては、宮崎友禅斎本人が金沢へ移り住んだ際、その技法を伝えたのではないかと言われています。

3つの友禅には、それぞれ特徴があります。
まず京友禅は、御所の周りで育つ季節草花を描く「御所時」という模様や松竹梅など、伝統的な絵柄が特徴的です。多くの色が使われるのも特徴のひとつですね。

加賀友禅は、植物や鳥といった、いわゆる花鳥風月を写実的に描写する特徴があります。そこにぼかしを入れ、印象的に仕上げます。

対して江戸の友禅、つまり東京手描友禅は、絵柄にこれといった特徴がなく、色に関しては、色数が少なくすっきりしたものが東京手描友禅の特徴といわれています。

これは江戸時代の後期に、幾度となく奢侈禁止令、つまり贅沢禁止令が発令されたことが理由です。それによって、着物に用いられる色数が制限され、華美なものが着られなくなりました。

そのなかで江戸の町人たちは、1色の中に柄を仕込んだり、裏地に絵柄をつけたりといった着物の楽しみ方をするようになりました。こうした楽しみ方から、洗練されておしゃれなものを「粋」と表現するようになったとされています。

とはいえ現在は京都や加賀で修行をして東京で活動している作家も多いので、一概には特徴をまとめきれません。染師の個性が出ることが、東京手描友禅のおもしろさかもしれませんね。

90年以上、3代の歴史を誇るアトリエ小倉染芸 特徴は品のある仕上がり

そうした東京手描友禅の歴史があるなかで、アトリエ小倉染芸はどのようにして事業を展開されてきたのでしょう?
事業を始めたのは祖父・小倉玉鳳です。90年以上前、創業当初は神田川の目の前に居を構えていたそうですが、戦争で焼けてしまい、現在の地に移転しました。

私が生まれる前に亡くなっており会ったことはないのですが、祖父は芸者の方に向けた友禅を手がけていたそうです。
これは私の憶測ですが祖父は展開的な飲兵衛で、宵越しの銭を持たないという方だったといいます。そうした背景から芸能の世界にも興味があったのかもしれません。

やがて2代目である私の父・貞右の代になると、今度はお茶をされている方へ向けた作品を創るようになりました。父は家を継ぐ前、緻密で細かい絵柄を描くのが特徴の京都の友禅の名家へ修行に出ており、その影響があったのだと思います。

父が2代目となったのち、バブル崩壊後は取引先との取引が途絶え苦しい時期もありましたが、百貨店さんとの取引を始めたことで持ち直し、今は私が3代目となって活動しています。

小倉染芸では、染料の色の良さと糸目の美しさを引き出す独自開発した渋黄色の糊を使っています。こうすることで染料と糸目、それぞれの素材の良さを引き出すことができるのです。

そうして素材の良さを生かしながら必要な絵柄だけをシンプルに描くことで、落ち着きの中に華やかさがある、品のある仕上がりとなります。
着る物と、着ていただく方が揃ってはじめて完璧な美しさとなるよう、着物や帯の柄は、極力無駄な部分をなくして引き算を心がけているのです。
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