1984年生まれ、富山県高岡市出身。
大学院修了後、システムエンジニアとして東京・大阪で勤務。
2016年、Uターンで高岡に戻り家業である般若鋳造所に勤務。
2022年日本伝統工芸展初入選、2024年日本伝統工芸富山展にて日本工芸会賞受賞。
般若鋳造所の歴史は、絶え間ない変化への適応の歴史でもあった。創業当初は鍋などの生活用品が中心だったが、昭和の初期から中期にかけて、工房の主製品は火鉢へと移り変わる。当時、火鉢はどの家庭にもある生活必需品であり、その需要は工房の経営を力強く支えていた。
しかし、時代の変化は容赦なく訪れる。石油ストーブの登場により、火鉢の需要は瞬く間に激減したのだ。主力製品を失うという存続の危機に立たされた工房は、大きな決断を迫られる。新たな活路として選んだのは、鉄製の茶釜に代表される茶道具の世界だった。
それは未知への挑戦の始まりでもあっ た。それまで銅器専門だった工房には、鉄を溶かすための炉さえなかったのだ。
「茶道具を作り始めるまでは銅器しか製造していなかったため、鉄を溶かす炉を自社で持っておらず、市内の鋳造所に鋳型を持っていき、溶けた鉄を流し込んでもらっていました」
他社の力を借りながら、少しずつノウハウを蓄積し、やがて自社で鉄を鋳造できる設備を整えた。既存の技術をベースに、技術や設備など何が不足しているか、いかに補うかを考えて対応してきたという姿勢は、この後も幾度となく訪れる困難を乗り越えるための、工房のDNAとなっていく。