150年の伝統と革新が溶け合う:世界が認めた「般若鋳造所」の吹分技法
2025.08.26
150年の伝統と革新が溶け合う:世界が認めた「般若鋳造所」の吹分技法
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2023年、アメリカの国立博物館、スミソニアンに日本のとある工房の作品が収蔵された。それは、まるで水彩画のように2色の金属が溶け合い、唯一無二の文様を描き出す鋳物。塗装ではなく、溶けた金属そのものが混じり合うことで生まれる景色は「吹分(ふきわけ)」と呼ばれる、一度は歴史の狭間に消えかけた技法によるものだ。
この作品を生み出したのが、富山県高岡市にある般若鋳造所。創業以来、150年以上にわたり鋳物づくりを続けてきた老舗である。激動の時代を乗り越え、伝統の灯を灯し続けるだけでなく、なぜ今、彼らのものづくりは世界を魅了するのか。
PROFILE|プロフィール
般若 雄治(はんにゃ ゆうじ)
般若 雄治(はんにゃ ゆうじ)

1984年生まれ、富山県高岡市出身。

大学院修了後、システムエンジニアとして東京・大阪で勤務。

2016年、Uターンで高岡に戻り家業である般若鋳造所に勤務。

2022年日本伝統工芸展初入選、2024年日本伝統工芸富山展にて日本工芸会賞受賞。

火鉢から茶道具へ、しなやかなる転換

般若鋳造所の歴史は、絶え間ない変化への適応の歴史でもあった。創業当初は鍋などの生活用品が中心だったが、昭和の初期から中期にかけて、工房の主製品は火鉢へと移り変わる。当時、火鉢はどの家庭にもある生活必需品であり、その需要は工房の経営を力強く支えていた。

しかし、時代の変化は容赦なく訪れる。石油ストーブの登場により、火鉢の需要は瞬く間に激減したのだ。主力製品を失うという存続の危機に立たされた工房は、大きな決断を迫られる。新たな活路として選んだのは、鉄製の茶釜に代表される茶道具の世界だった。

それは未知への挑戦の始まりでもあった。それまで銅器専門だった工房には、鉄を溶かすための炉さえなかったのだ。

「茶道具を作り始めるまでは銅器しか製造していなかったため、鉄を溶かす炉を自社で持っておらず、市内の鋳造所に鋳型を持っていき、溶けた鉄を流し込んでもらっていました」

他社の力を借りながら、少しずつノウハウを蓄積し、やがて自社で鉄を鋳造できる設備を整えた。既存の技術をベースに、技術や設備など何が不足しているか、いかに補うかを考えて対応してきたという姿勢は、この後も幾度となく訪れる困難を乗り越えるための、工房のDNAとなっていく。

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