

伝統工芸士。石織商店4代目。地域団体登録商標や加須ブランドに認定されるなど、県の伝統的手工芸品を手がける職人として、高品質な手仕事を提供する。
閑静な住宅街にある工房に伺うと、染めの作業の真っ最中だった。藍染特有の草が発酵したような清々しい香りが漂っている。
藍を建てて発酵させた染め液に、布を浸して時間を置き、引き上げて絞る。天日に干すことで、酸化させて色を定着させる。乾いたら、洗う。その工程を幾度も繰り返すことで、芯まで深く美しい藍色に染め上げていく。


「草木染などは、煮だして染める。でも藍染は低温なので、何度も染めることで色を定着させる。全て手作業で行います。腰をかがめては何度も立ち上がるので、身体も厳しいんです」
武州正藍染は、埼玉県北部の利根川流域で生まれた伝統工芸だ。そのはじまりは江戸時代頃、川沿いに自生していた藍を使い、農閑期に農家の主婦 が武州紺織と呼ばれる衣服を作り始めた。
この地域の井戸水は鉄分が多く、それが触媒となって紫がかった濃い藍色に染まる。その色は武士たちに「勝色」と呼ばれ、正藍染剣道着として愛され続けてきた。
「諸説ありますが、加須には騎西城という城があり、城下町として栄えたため、染物の市がありにぎわっていたようです。最盛期であった明治時代には200軒もの紺屋職人がいたとか」
埼玉北部・深谷生まれであり「近代日本経済の父」と称される渋沢栄一も、武州正藍染に関わりがある。藍染の染料であるすくもを丸めた藍玉の売買を手伝い、商才を発揮した。