糸伍株式会社 代表取締役社長
伊賀組紐の歴史は、明治35年にさかのぼる。江戸で組紐を学んだ広沢徳三郎が技術を持ち帰り、伊賀の地に根付かせたのが始まりだ。以降、伊賀は京都・東京と並んで組紐の産地として知られるようになり、帯締めや装飾品を通じて日本文化を彩ってきた。
糸伍の創業は昭和29年。松田さんの祖父とその兄が、手組みではなく機械織りによる組紐づくりに挑戦したことから始まった。志を同じくする仲間とともに立ち上げ、時代の変化に合わせて技術を磨いてきた。現在は4代目にあたる松田さんが工房を率いている。
松田さんは、もともと大手半導体メーカーでエンジニアとしてキャリアを積んでいた。最新鋭の半導体工場で製品プロセスや信頼性評価に携わっていたが、結婚を機に「家業を継ぐべきだ」という意志を固め、29歳で伊賀に戻った。
「小さい頃から機械の音を聞いて育ちましたが、実際に自分が継ぐとなると不安も大きかった。けれど、伝統を残していかなければならないという責任感が勝りました」と振り返る。異業種で培った技術者としての視点が、のちの新商品開発 にも生かされていく。