木桶のルネサンス:常識の箍を外す、中川木工芸が描く未来【後編】
2025.09.04
木桶のルネサンス:常識の箍を外す、中川木工芸が描く未来【後編】
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人間国宝の父への反発と、現代アートへの傾倒。その葛藤の中から“工芸の主語はWe”という独自の哲学を見出した中川さん。
後編では、その思索が、世界を驚かせる“かたち”へと結晶する。世界を魅了した革新的な木桶の誕生秘話から、テクノロジーや建築との刺激的なコラボレーション、そして工芸が未来の日常を豊かにする壮大なビジョンを伺った。
<前編の記事は下記から読めます>
PROFILE|プロフィール
中川 周士(なかがわ しゅうじ)
中川 周士(なかがわ しゅうじ)

1968年京都市生まれ。中川木工芸の3代目。1996年京都美術工芸展 優秀賞受賞。1998年京都美術工芸展 大賞受賞。2003年、中川木工芸 比良工房を開設。2010年木桶「konoha」がフランスの高級シャンパン銘柄の公式シャンパンクーラーとして採用以降、国内外で多岐にわたる活動を行う。

常識を覆す、木桶の新たなる地平

伝統工芸のみならず、多領域で精力的に活動されていますが、そのきっかけや経緯について教えてください。

2003年に滋賀県の比良山地の麓に自身の工房を開設し、独立後は細々と桶屋を続けていましたが、転機が訪れます。2008年、京都の伝統産業と海外ブランドを融合した商品企画をする株式会社リンクアップの代表が当社の木桶を持っていたことから、これまでにない木桶づくりについて提案を受けました。

木桶の常識を覆すシャープなフォルムを求めて、最初は急カーブの桶を作っていました。限界までカーブを鋭角にしたとき、箍を嵌めるのは無理だと諦めかけましたが、箍の入るところまでは緩いカーブで、口縁に近い上部のみを尖らせたデザインを閃きました。何度も図面を引き直し、ノミや鉋(かんな)をふるって試作品を作り続けること約2年、試行錯誤の末、口縁がラグビーボールのように尖った木桶「konoha」が完成しました。そして、それが2010年にフランスの高級シャンパン銘柄の公式クーラーに採用されたのです。

konohaには樹齢200年以上の尾州檜を使用します。真っ直ぐに走る木目は柾目(まさめ)と呼ばれ、樹齢の長い木の中心部分でしか取れません。ストロー状になった木の繊維が水を吸収し、水漏れしないのです。また、てこの原理を利用して、箍のない上部も締まるようになっています。

konohaが洗練されたバーやホテルのラウンジに置かれ、これまで木桶にまったく興味のなかった層が関心を持ってくれるようになりました。丸い底面の筒状のものという既成概念から脱却し、伝統的な技術にデザイン性を加えることで今までにない新たな市場が広がり、木桶の新たな可能性が見えた瞬間でした。

konoha
konoha