着物に囚われず、伝統技術の可能性を追求する金彩上田
2023.10.13
着物に囚われず、伝統技術の可能性を追求する金彩上田
金や銀の箔、金粉などを糊で接着し、装飾する技術を「金彩」と呼ぶ。きらめく金の美しさや、繊細かつ力強い表現は、見る人の心を魅了する。
友禅の仕上げとしてよく活用されている金彩だが、時代の流れとともに着物を手に取る機会が減り、近年はこの技術を知らない人も多い。「金彩の認知度を上げて技術をつなぎたい」と、その可能性を追求しているのが、京都府北区にある金彩上田だ。
今回は、金彩上田で職人として活動している上田奈津子さんにインタビューを実施。同工房を立ち上げた経緯や現在の活動、金彩の魅力について話を伺った。
PROFILE|プロフィール
上田 奈津子(うえだ なつこ)
上田 奈津子(うえだ なつこ)

幼い頃から伝統工芸に触れて育ち、社会人になってからより伝統技術を意識するようになる。金彩業の課題解決に向けて動きたいと思い、母と2人で金彩工房を立ち上げた。現在は、他業種とコラボしたり、個人でアート作品を制作したりと、多様な活動に取り組んでいる。

伝統工芸を残すため、母と娘で立ち上げた金彩上田

金彩上田が誕生した経緯を教えてください。
金彩上田は、私と私の母で営んでいる金彩工房です。母は、18歳頃から京友禅の工房で働いていました。結婚や出産を経て一般的な仕事に就いていたのですが、新しく立ち上げられた金彩工房から声をかけていただいたのをきっかけに、再び職人として働くようになりました。

一方で私は、物心ついた頃から母が職人として働いていたので、伝統工芸というものが身近にありました。当時はこの仕事が守り継いでゆくような特別なものだとは感じていなかったので、周りのみんなと同じように進学後、アパレル会社に就職したのです。

アパレルの会社で販売員として働いていたときは、母と離れて暮らしていたので、お互いの近況報告や仕事で大変なことなど、電話でいろいろな話をしていました。

母と話をするなかで、次第に一般企業と伝統工芸の世界の違いを感じるようになってきて。たとえば、伝統工芸の職人は技術があるのに、賃金がそれに見合っていません。また、着物に施す金彩は古典デザインの美しさを活かしたり、時代に合わせたデザインを取り入れたりと工夫をしていますが、もっと多様なデザインに金彩を施せるのではないかと感じました。

いろいろ考えているうちに、私たち自身で何かを始めた方が、金彩という伝統工芸を残すことを含めてよりよい形を目指せるのではないかと思い始めたのです。そのため、着物の金彩だけに囚われない可能性を求めて、2人で当工房を立ち上げました。
「着物の金彩に囚われないで」とのことですが、そのように考えられた理由は何ですか?
着物は、私ですら「年に何回か着るかな」という感じですし、若い方たちならなおさら「京都旅行でアンティーク系の着物を着る」くらいの機会しかないと思います。呉服屋でオーダーメイドの着物を作るなんて、人によっては一生に一回あるかないかの頻度ですよね。

ただ、「自分の祖母や母から譲り受けた着物を着たい」という人は増えています。新品のものを作るまではせずとも、「剥がれている金をきれいにしたい」「黄ばみを直したい」という依頼は多いですよ。

現在は、どのようなお客様が多く利用されていますか?
年齢層でいうと、60代以上の人たちが多いと思います。また、お客様からお願いされた企業が当工房に依頼してくるパターンが多く、個人的に依頼してくださる人は少ないですね。

工房に直接依頼に行くのは、やはりハードルが高いのだと思います。みなさんにとって金彩工房は身近にない場所なので気軽に行けないですし、敷居が高いと感じるのかなと。

しかし、当工房は「誰でも気軽に来てください」というスタンスなので、まずはそのことを知ってもらいたいと思っています。

工房に直接お願いするイメージのない方も多いと思いますが、直接お願いするメリットは何でしょうか?
工房に来ていただくと、職人と直接意思の疎通ができるので、仕上がりに対する認識のズレをなくせることがメリットです。

職人は、これまでの経験からアイディアの引き出しをたくさん持っています。特に私の母は、経験も技術もある。そのため、お客様が考えている一つのプランだけでなく、複数のプランを提示して選択してもらえます。

また、お客様の要望を汲むだけでなく、使用する場面を考慮しながら、予算内でよりよく仕上げるための提案も可能ですね。もちろん、仲介を挟まないので金額も抑えられますよ。
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