伝統工芸を残すため、母と娘で立ち上げた金彩上田
金彩上田が誕生した経緯を教えてください。
金彩上田は、私と私の母で営んでいる金彩工房です。母は、18歳頃から京友禅の工房で働いていました。結婚や出産を経て一般的な仕事に就いていたのですが、新しく立ち上げられた金彩工房から声をかけていただいたのをきっかけに、再び職人として働くようになりました。
一方で私は、物心ついた頃から母が職人として働いていたので、伝統工芸というものが身近にありました。当時はこの仕事が守り継いでゆくような特別なものだとは感じていなかったので、周りのみんなと同じように進学後、アパレル会社に就職したのです。
アパレルの会社で販売員として働いていたときは、母と離れて暮らしていたので、お互いの近況報告や仕事で大変なことなど、電話でいろいろな話をしていました。
母と話をするなかで、次第に一般企業と伝統工芸の世界の違いを感じるようになってきて。たとえば、伝統工芸の職人は技術があるのに、賃金がそれに見合っていません。また、着物に施す金彩は古典デザインの美しさを活かしたり、時代に合わせたデザインを取り入れたりと工夫をしていますが、もっと多様なデザインに金彩を施せるのではないかと感じました。
いろいろ考えているうちに、私たち自身で何かを始めた方が、金彩という伝統工芸を残すことを含めてよりよい形を目指せるのではないかと思い始めたのです。そのため、着物の金彩だけに囚われない可能性を求めて、2人で当工房を立ち上げました。