【第3回】失敗の繰り返し、その先に人間国宝・中川衛が見出した技術とデザイン
2025.06.19
【第3回】失敗の繰り返し、その先に人間国宝・中川衛が見出した技術とデザイン
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人間国宝・中川衛さんが語った工業デザイナーとしての仕事と工芸の修業は、私たちの想像を超えるほど過酷なものだった。いまでは良き思い出のように語る中川さんだったが、そのような生活を送るなかで「人生はフルマラソンと同じだ」と振り返った。
「加賀象嵌(かがぞうがん)」という繊細な技術を身につけるためには、千里の道も一歩からだった。だからこそ、毎日半歩でも前進していくことの大切さを感じていたのだろう。その努力が、中川さんを人間国宝という地位まで押し上げた。
とはいえ、中川さんの作品の魅力はその繊細さだけでなく、そのデザインセンスにもある。そこで今回は、高橋介州先生の下で伝統工芸を学び、その難しさと向き合うなかで、既存の価値観にとらわれない思考の大切さに気づいた修業時代をお送りする。
<前回は過酷な修業時代の生活、そこで得た気づきをお送りしました。詳しくはこちら。>

失敗こそ成功の始まり

「豚もおだてりゃ木に登るって言うでしょ」。お金も時間もかかる象嵌制作を、いまも続ける理由をそう話してくれた中川さん。作品が受賞するようになり、次も頑張ろうという思いで制作を続けてきたと謙遜しながら話してくれた。

自家薬籠中のものとした象嵌の知識や技術の裏側には、数え切れない失敗があったという。

よく言われることですが、「失敗は成功の始まりです。失敗を繰り返すことで、初めて自分の知識になり、技術を身につけることができると思っています。本に書いてある通りに実践してみても、できないことって、たくさんあるんですよ。嘘が書いてあるんじゃないかって、疑ったくらいですから。

一番苦労したのは、金属を発色させる技法です。硫酸銅と緑青を混ぜた液体のなかで作品を煮るのですが、本には、高温で煮るとこげ茶色になるとか、薬剤の配合率によって色が変化することから注意してくださいと書いてあるんですよ。でも、具体的な数値などは書かれていません。

だから自分で温度を変えてみたり、薬品の濃度を変えてみたりして、納得の色が出るまで繰り返すしかなかった」

その失敗の数は想像に難くない。「いまですら失敗するから、誰か教えてくれないかな」と心情を吐露してくれた中川さんの言葉の裏には、象嵌の奥深さが横たわっていた。
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