【第4回】世界を旅し、日常に美を見出す──人間国宝・中川衛のアイディアの源泉
2025.06.26
【第4回】世界を旅し、日常に美を見出す──人間国宝・中川衛のアイディアの源泉
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前回、人間国宝・中川衛さんから語られたのは、「加賀象嵌(かがぞうがん)」という伝統工芸に対する柔軟な姿勢であり、それは、私たちが伝統工芸と聞いて想像するものとはまったく異なるものだった。
「伝統工芸は、古き技術を体現するからこそ素晴らしいものだ」という固定観念を乗り越え、現代に合わせた美を追求しなければならない。高橋介州先生からも「ハイカラなものをつくれ」と教えられ、中川さんは多様な価値観を学んでいくことになる。
今回は、中川さんの作品に見られる芸術的なデザインの秘密をお送りする。現代的な美を追求するなかで、中川さんは何に気づき、どのように作品に落とし込んでいったのだろうか。
<前回は既存の価値観にとらわれない思考の大切さに気づいた修業時代をお送りしました。詳しくはこちら。>

海外で出会った自然の美しさ

ここまで中川さんが語ってきた象嵌に対する考え方は、どこからきたものだったのか。それに大きく関わるのが、海外での経験だったようだ。なかでも、トルコの影響は強く受けているという。

「三鷹市に、中近東文化センターという場所があります。当時『イスラム圏の商人と職人たち』という研究がされていて、私も調査に加わらせていただき、毎年のようにトルコに飛んでいましたよ。

ここぞとばかりにスケッチをしましたね。トルコに行ったその足でブルガリアに寄ったときには、目の前に広がる草原と森の美しさに心を奪われました。

だんだんと日が沈んでいき、西と東の空の綺麗な明暗はいまも脳裏に焼き付いています」

その風景を作品に落とし込んだのが、《重ね象嵌朧銀花器「草原の森」》だった。銀や四分一(しぶいち)という銀と銅の合金などを使用して、見事な明暗を表現し、時の流れを表した作品となっている。
第50回日本伝統工芸展<br>重ね象嵌朧銀花器「草原の森」
第50回日本伝統工芸展
重ね象嵌朧銀花器「草原の森」
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