東京の神田・神保町と言えば、まさに古本でひしめき合うエリアだ。店舗の数は約130店にものぼり、世界一の本の街でもある。
また古本屋だけでなく、喫茶店やカレー屋も多く、最近では若者からの人気も高い。そんな知的好奇心を満たす神保町に「
(元)鶴谷洋服店」はある。
外観は老舗の洋服店に見えるが、ショーウィンドウを覗くと、インパクトのある雑貨がディスプレイされていて、思わず惹きつけられてしまう店舗だ。
店内は、かつて渋谷や原宿をにぎわせた文化屋雑貨店の小物や、私たちも子どもの頃に集めていたキーホルダー、キッチュな雑貨が飾られ、ほんのりとした懐かしさとともに、昭和世代だったらついうれしくなってしまう。
魅惑的なモノで溢れている(元)鶴谷洋服店は、一体、どのような店舗なのか?今回は、私たちの心を刺激する、店主・岩船さんにお店についてお話を伺った。
伯父のテーラーの建物維持の目的から、いつの間にかお店に
(元)鶴谷洋服店は、屋号の通り、かつて3代続いた注文仕立て専門の紳士服店だった。現在は亡き3代目の姪・岩船さんが、店舗を運営している。外観からは、老舗のテーラー店の凛とした雰囲気が漂っており、店内とのギャップが特徴的だ。どのような経緯で(元)鶴谷洋服店は、現在の雑貨店のようなお店を運営し始めたのだろうか。
「テーラーだった伯父の他界で、シャッターを下ろしたままになっていた店に、たまたまその頃時間のあった私どもが、建物維持の名目で風を通しに行ったのがきっかけです。せっかく、風を通すのなら…と少し商品を並べてみたら楽しかったのが始まりでした」
こうして2011年にオープンした(元)鶴谷洋服店。最初は少なかった商品も、徐々に増えてきたという。
「当初から雑貨店をやろうとは思っていたのですが、商品が少なくて。片付けで出したものを売っていると思われる人もいましたし、最初は本当に試行錯誤でした。今でも自分に課題を与えてお店作りをしています」
懐かしいデザインのグラスから、思わず手に取りたくなる古本まで。(元)鶴谷洋服店ならではといったセレクトで埋め尽くされた店内はつい時を忘れてしまう。
また、テーラー生地を使用したオリジナルアイテムも見逃せない。がま口やバッグ、ネクタイなどのアイテムは、(元)鶴谷洋服店のテーラー生地の質の良さを楽しめる。
「伯父夫婦が生前、生地を大切にするのを見ていたこともあり、遺された生地は有効に使おうと思い、小物を作り始めました。紳士服の生地に触れるのは初めてでしたが、中には昭和30年代に仕入れたものもあり、触れているうちにその質の良さもわかってきました 。ただ見た目が地味なものが多いので、どうすれば楽しんでいただけるか、いつも模索しています」
文化屋雑貨店、編み物☆堀ノ内 イラストレーター・吉岡里奈が織りなすクリエイティブ
(元)鶴谷洋服店には、文化屋雑貨店のグッズが置いてある。特に文化屋雑貨店の人気アイテム・ひょう柄の陶器は記憶に残っている人も多いだろう。
文化屋雑貨店で青春時代を過ごした人ならば、店名の響きに懐かしさを覚えるだろうが、どのような経緯で文化屋雑貨店のグッズを置くことになったのだろうか。
「2016年に神田のギャラリー・TETOKA(手と花)で文化屋雑貨店のイベントが開催されるとき、広告に当店を掲載して良いか、という電話がありました。
その時に文化屋雑貨店の創業者・長谷川義太郎さんとの面識を得たのがきっかけです。その後もオリジナル商品を納品してくれるようになり、今に至ります。もちろん渋谷時代の文化屋雑貨店も存じ上げています」
当然だが、(元)鶴谷洋服店は文化屋雑貨店ではない。しかし、不思議なことに、非常にお互いがマッチしている空気感が漂う。「似ている」という言葉では言い表せない、独特のマッチした空気感だ。長谷川義太郎氏も、以前から(元)鶴谷洋服店によく訪れていたというだけのことはある。この独特の空気感は、(元)鶴谷洋服店と文化屋雑貨店を訪れた者にしか分からない。