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2024.04.24

アウトドアプロダクツのデイパック「452U」が 物語る、「不変」という価値

我々の身の回りにある、あらゆるプロダクトは日々進化を競っている。代表的なアイテムがバッグだ。超軽量の防水素材が使われたり、デジタルガジェットを収めるための多くのポケットが設けられたりしてきたが、なかには変わらないバッグだってある。
たとえば、アウトドアプロダクツの定番「452U」。世界中で愛されるアメリカ生まれのデイパックは、1970年代に誕生して以来、デザインや素材、製法といった基本設計がほとんど変化していない。なぜ変わらないのか? その理由を探るべく、伊藤忠商事株式会社でアウトドアプロダクツを担当する板坂未夢さんに話を伺った。
PROFILE|プロフィール
板坂 未夢(いたさか みゆ)

ブランドマーケティング第二部 ブランドマーケティング第四課
2013年に伊藤忠商事株式会社入社し、百貨店からカジュアル、スポーツ、化粧品など、さまざまなブランドを担当。

ブランドのルーツはアウトドア用品の百貨店

「452U」の魅力は、アウトドアプロダクツというブランドの成り立ちに紐づいている。
「アウトドアプロダクツは、1973年にアルトシュール兄弟によって、アメリカの西海岸で設立されたブランドです。彼らの父親はロサンゼルスで『The Famous Department Store(FDS)』というアウトドア用品の百貨店を経営していました。当時は幅広いアウトドア用品を扱うショップは珍しく、店にはプロの登山家や冒険家が足繁く訪れていました。そのうち彼らは『目の肥えたアウトドアのプロたちが、普段の生活で気軽に使えるギアを作りたい』と思うようになり、店の一角にあった工房でバッグやレインウエア、靴などを作り始めたのです」
アウトドア用品店「The Famous Department Store」
アウトドア用品店「The Famous Department Store」

人件費の問題を解決するために考案されたシンプル構造

「452U」の本体はたった2枚の生地でできている。フロントからボトム、両サイド、背面を構成する大きな生地が1枚と、天面を覆う横長の生地が1枚というシンプルな構造。
あとはここにジッパーやショルダーストラップ、ブランドタグ、あらかじめ組み立てられた外ポケットをつければ完成だ。
作りこそ簡素になったが、品質はかえって向上した。生地に通常のナイロン生地の何倍もの強度を持つデュポン社(現インビスタ社)製コーデュラナイロンを使用することで、卓越した頑丈さを実現している。さらにYKK製のダブルプルナイロンコイルジッパーによって開閉もいっそうスムーズな仕様となっている。
また、ショルダーストラップには長さを調整するアジャスターとクッションパッドがあしらわれ、そのショルダーストラップと本体の接続部分には、ちぎれを防止するシームロックも施されている。

カルチャーと結びつくことで、アメリカン・スタンダードに

1980年代に入ると、大学やプロスポーツとの関係を深めていく。
「アルトシュール兄弟の弟は、ビジネスにおいて先見の明を持った人物で、アイビーリーグ(アメリカ北東部にある名門私立大学の総称)をはじめ、全州の大学と契約します。そして’90年代には、NFLやNHL、NBAの全チームともライセンス契約を結びました。こうして全米中の大学生協やスポーツ用品店、スタジアムで、大学やチームの名前がデザインされた『452U』が販売されるようになりました」
アメリカの全州の大学と契約
アメリカの全州の大学と契約
日本での知名度を高めたのは、テレビドラマの『ビューティフルライフ』の影響が大きい。作品の中で、木村拓哉さんが演じる主人公がスカイブルーの『452U』を背負っていたことがきっかけで、若者の間でブレイクしました」
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