老舗タンナーが皮革のふるさと姫路で作る、こだわりの革:株式会社山陽
2024.07.29
老舗タンナーが皮革のふるさと姫路で作る、こだわりの革:株式会社山陽
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株式会社 山陽」は、兵庫県姫路市に本社・工場を構えるタンナー(製革業者)だ。姫路市は、広い河川と穏やかな流水、比較的温暖で雨も少ない土地柄などが関係し、昔から革産業が栄えていた。
同社は伝統的な製法を受け継ぎながら、現在まで日本の革産業を支えている企業のひとつ。最近はBtoB事業だけでなく、自社ブランド「TAANNERR(タァンネリル)」を立ち上げ、革の魅力を消費者に直接伝える取り組みにも注力しているそうだ。
今回は、同社の歩みや革の製造工程、自社ブランドを立ち上げた経緯について、代表取締役社長の戸田さんと常務取締役の塩田さん、事業推進課の森本さんにお話を伺った。
PROFILE|プロフィール
戸田 健一(とだ けんいち)
戸田 健一(とだ けんいち)

株式会社 山陽 代表取締役社長
兵庫県姫路市生まれ。広島大学経済学部 卒業。大学では経営学を学び、1995年 株式会社山陽に入社。
30歳を契機にもっと経験を積みたいという想いで一度退職し、5年間、大阪の上場企業で経理財務を中心に企業運営についての学びと経験を経て、2009年、株式会社山陽に復帰する。2021年、10代目 代表取締役社長に就任。

PROFILE|プロフィール
塩田 和也(しおた かずや)
塩田 和也(しおた かずや)

株式会社 山陽 常務取締役
大阪府松原市生まれ。日本大学大学院農学研究科 卒業。大学では畜産学を学び、1990年 株式会社山陽に入社。主に革の仕上げ部門に携わり、商品開発及び生産管理を担当。2021年、常務取締役に就任し、皮革製造の全体管理に加えて顧客からの相談対応・提案といった分野にも活動の場を広げている。
また、工場を持続的に運営するため、SDGsを意識した工場の改善、LWG(レザーワーキンググループ)環境認証の取得といった工場管理体制の構築も行っている。

PROFILE|プロフィール
森本 耕治(もりもと こうじ)
森本 耕治(もりもと こうじ)

株式会社 山陽 事業推進課長
兵庫県姫路市生まれ。関西学院大学文学部心理学科 卒業。大学では知覚の情報処理を専攻。エレクトロニクス業界および医療業界でSE(システムエンジニア)、グラフィック・デザインおよび広報担当を経験し、2021年に株式会社山陽に入社。
主に山陽レザーの広報を担当している。コーポレートブランディング、イベントの企画・運営、WEBサイト運営などを中心に活動。レザーの情報発信を行っているWEBサイトのコラムは200を超えている。

革の歴史がある姫路ならではの伝統的な革作り

御社の事業の始まりについて、教えてください。
戸田 「まず、1905年に『姫路製革所』が立ち上げられました。当時の日本は富国強兵を掲げて殖産興業を推進しており、近代的な革づくりを国策として行うことがこの製革所の目的でした。

姫路市では古くから革を作っていたことから、姫路市に設立されたんです。その後、民間企業として1911年に『山陽皮革株式会社』が創業しました。

軍事用の革製品を国内で生産するという国策があったため、もともとはそれを担うために作られたのですが、戦後は鞄や靴などの民需に応える商品作りへと移っていきました。

『株式会社山陽』に社名を変更したのは、1977年です。世の中の流れが変わりつつありましたし、高度経済成長期が終焉を迎えつつあったなかで、いろいろな可能性を踏まえたチャレンジをしたいという想いがあったため、社名変更しました」

御社で生産している革は、どのような製法で作られていますか。
戸田 「弊社では、『植物タンニン鞣し(なめし)』『クロム鞣し』『白革鞣し』の3種類の製法で革を作っています。鞣しとは、皮から革にする工程のことです。皮が腐らないようにするために行います。詳しい内容は、塩田から説明してもらいましょう。

塩田 「植物タンニン鞣しでは樹木に含まれるポリフェノール成分『タンニン』を、クロム鞣しでは『クロム鞣剤』という薬剤を使います。

植物タンニン鞣しを行っているのは、世界的に見ても、全体の20〜30%ほどです。また、弊社では、ピット槽と呼ばれる槽で植物タンニン鞣しを行っているのですが、植物タンニン鞣しを行っている国内の企業はもう数社しかありません。

私たちの白革の元になったのは「姫路白鞣し革」です。革づくりの歴史がある姫路ならではの伝統製法です。本当に貴重な鞣し方法なので、量産で作るのは難しいんです。また私たちの白革も現在ではお客様からの要望があるときにだけ行っています」

ピット槽での植物タンニン鞣しは、難易度が高いのでしょうか。
塩田 「タンニンが皮に浸透するまでに約1ヶ月間がかかるんです。牛の品種でも変わりますし、個体差もありますが。

また、気温や水温によっても浸透具合が変わるので、冬場はピット槽の液を温めながら鞣すなどの工夫が必要です」
植物タンニン鞣しとクロム鞣しでは、出来上がる革に違いがありますか?
塩田 「皮はアクションを加えてれば加えるほど繊維がほぐれて柔らかくなります。逆にアクションを加えないピット槽で鞣した革は分厚くて伸びにくい、しっかりとした革になります。

昔は乗馬の手綱や鞍(くら)として使われていましたが、現在はベルトや鞄の持ち手に使われることが多いです。

一方で、クロム鞣しで作った革は耐熱性に優れ、厚みの調整などにも対応できるのが特徴です。弊社では、クロム鞣しをした革は靴用として使われることが多いので、型崩れしにくいような革を作るようにしています。

何を作るのかによって、それぞれ鞣し方を変えています」

白鞣しは伝統的な製法だとお話しいただきましたが、具体的にはどのような方法なのでしょうか。
塩田 「白鞣しにも、いろいろな作り方があります。平安時代に行われていた本来の方法は、市川という川に皮を浸けて、バクテリアにさらして塩となたね油で揉みながら鞣す、というやり方です。

原皮はもともと白色で、特に色はついていません。塩となたね油は風合いをつけるために使っているだけなので、それ以外のもの使わなければ皮の白さがそのまま残るんです。

この製法は一旦途切れてしまったと聞いていましたが、この地域で再現されているという方もいらっしゃいます。やはり希少なものであり、文化財という側面もあるようです。

弊社では、特殊な鞣し剤を用いて独自の白革を作っています」

鞣しの工程で、難しい工程はありますか?
塩田 「“革は同じように作っても同じようなものができない。しっかり見て皮の個性に合った調整をしないから同じものができないんだ”と、昔からよく言われてきました。

そのため、植物タンニン鞣しでは、ピット槽に浸けてから出来上がるまでの間に、皮を少しカットしてどこまで浸透しているかを適宜チェックしています。

弊社には24槽のピット槽があり、各槽の中でタンニンの濃度を調整しています」

皮の仕入れから革が出来上がるまで、自社で一貫して行うよさを教えてください。
塩田 「弊社が取り引きしているお客様は、物理的な強度に対して厳しい方が多いです。

お客様が何を作られるのかで革の仕上げ方や塗装方法は変わりますが、最初から仕上げまで一貫して行っているからこそコントロールしやすく、そこが弊社の強みになっています」
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