江戸切子の制作工程を理解する上で、まず前提となるのが職人の熟練に必要な時間です。一般的に、一人の職人が「一人前」と見なされるまでには、およそ5年から10年の歳月が必要とされます。これは単に決められた文様を正確にカットする技術を習得する期間ではありません。
これだけの時間が必要なのは、多様・多彩な経験を積み職人としての技量のためです。大小さまざまな工具の特長と使い方、ガラスという素材の特徴と個性を見極める目、切子の精度とスピード、そして表現やデザインへの感覚、さらには修正依頼にも対応できる包括的な技術力まで様々な経験を求められます。一つのグラスの背景には、職人たちのこうした長い修練の時間が積み重ねられています。