津軽塗400年の革新:伝統工芸の未来を照らす「透ける津軽塗」の挑戦
2025.08.28
津軽塗400年の革新:伝統工芸の未来を照らす「透ける津軽塗」の挑戦
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光を透過し、奥に秘められた螺鈿(らでん)の輝きを、まるで星空のように浮かび上がらせる「透ける津軽塗」。これは、青森が誇る伝統的工芸品「津軽塗」で近年生まれた、まったく新しい表現だ。漆器といえば、光を吸い込むような重厚な色彩が常識だったが、そのイメージを根底から覆す。
この画期的な技法を生み出したのは、青森県弘前市にある老舗「津軽塗たなか(株式会社たなか銘産)」。代表の田中さんは、かつて東京でITエンジニアとしてキャリアを積んだ異色の経歴を持つ。伝統と先端技術、2つの世界を知る人物は、400年の歴史を持つ故郷の工芸に何を見出し、未来へとつなごうとしているのか。その挑戦の軌跡を追った。
PROFILE|プロフィール
田中 寿紀(たなか としき)
田中 寿紀(たなか としき)

株式会社 たなか銘産 代表取締役 社長

革新者の帰還 。 Uターン経営者の原体験

「家が伝統工芸をやっていて、継ぐということが選択肢になんとなくあるのが、正直少し嫌だったんです」 

田中さんは思春期から学生時代をそう振り返る。ガジェットやITの世界に惹かれ、大学進学を機に上京。その後エンジニアとして働き、家業とは無縁のキャリアを歩んでいた。

転機となったのは、2011年の東日本大震災だった 。故郷を含む東北の被災を目の当たりにし、自らの生き方を見つめ直した。「自分は東京でITの仕事を続けるべきか、地元の家業をつないでいくべきか」考え抜いた末に、Uターンを決意した。

彼の革新的なアイディアの根源は、幼少期の記憶にまで遡る。子どもの頃の遊び場は、職人たちが行き交う工場だった。完成品のツルツルとした美しさだけでなく、製作途中の凹凸のある漆の手触りが面白いと感じ、いたずらをしては怒られていたという。

この「途中の面白さ」という原体験が、後に新しい製品を生み出す種となる。

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