株式会社 たなか銘産 代表取締役 社長
「家が伝統工芸をやっていて、継ぐということが選択肢になんとなくあるのが、正直少し嫌だったんです」
田中さんは思春期から学生時代をそう振り返る。ガジェットやITの世界に惹かれ、大学進学を機に上京。その後エンジニアとして働き、家業とは無縁のキャリアを歩んでいた。
転機となったのは、2011年の東日本大震災だった 。故郷を含む東北の被災を目の当たりにし、自らの生き方を見つめ直した。「自分は東京でITの仕事を続けるべきか、地元の家業をつないでいくべきか」考え抜いた末に、Uターンを決意した。
彼の革新的なアイディアの根源は、幼少期の記憶にまで遡る。子どもの頃の遊び場は、職人たちが行き交う工場だった。完成品のツルツルとした美しさだけでなく、製作途中の凹凸のある漆の手触りが面白いと感じ、いたずらをしては怒られていたという。
この「途中の面白さ」という原体験が、後に新しい製品を生み出す種となる。