ひと穴ごと手作業にこだわる:伝統的な技法で作る「��手植えブラシ」が生まれるまで
2024.11.06
ひと穴ごと手作業にこだわる:伝統的な技法で作る「手植えブラシ」が生まれるまで
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掃除に手入れに、わたしたちの生活のあらゆる場面で身近な道具であるブラシ(刷子)。
戦後、ブラシ業界では機械化が進み、関西を中心に大規模な体制での大量生産が行われるようになった。その一方で、もともと工業用ブラシの製造業者が多くいた東京では、職人の「手植え」によるブラシの製造も根強く残っている。
そんな昔ながらの技法を守り続け、手植えブラシの製造と販売を行っているのが「寺沢ブラシ製作所」だ。下町情緒の残る東京・亀戸にある工房で、2代目である寺澤一久さんに製作過程や手植えにこだわる理由について話を聞いた。
PROFILE|プロフィール
寺澤 一久(てらさわ かずひさ)
寺澤 一久(てらさわ かずひさ)

1973年生まれ。手植えブラシの製造・販売を手がける「寺沢ブラシ製作所」の2代目。21歳のときに創業者である父・明さんのもとに弟子入りし、手植えブラシの職人歴は今年で30年を迎える。刷毛とブラシの専門店「江戸屋」をはじめ全国の企業・個人からも質のいい手植えブラシを求めてオーダーが舞い込む。2016年、江東区優秀技能者表彰。2021年、「東京手植ブラシ」の東京都伝統工芸士に認定。

日本の工業や伝統工芸を支える、影の立役者

寺澤さんが製造を手がけている手植えブラシと機械植えブラシでは、どのような違いがあるのでしょうか。
手植えブラシは毛材を二つ折りにしてひと穴ひと穴植えていくので、機械植えブラシに比べて毛材が抜けにくく耐久性があるんです。靴磨きのプロの方はほとんどが手植えの靴ブラシを使っているのではないでしょうか。うちではほとんどの工程を手作業で行っているので、量産が難しく、すべての商品を受注生産しています。

ブラシの毛材には天然の馬毛、豚毛、山羊毛といった動物の毛から植物繊維のほか、金属線では真鍮、ワイヤー、ステンレス、りん青銅なども使っています。

先ほど寺澤さんが作られた靴ブラシを見せていただき、毛がびっしり詰まっていて、ふさふさとやわらかな触り心地で驚きました。家庭用と工業用のブラシでは、どのような割合で製造していますか。
7割が工業用ブラシですね。残りの3割は靴ブラシや洋服ブラシなどの家庭向けの製品を作っています。工業ブラシはほとんどの場合、製品の納め先は問屋さんなので、実はその先のエンドユーザーの方がどのような用途でブラシを使っているのか分からないんです。

製品数も今どのくらいあるのか、正直なところ見当もつかないですね。たとえば、毎月、定期的に植えているブラシは20〜30種類だけれど、1年に1回植えるものもあれば、3年に1回植えるものもあります。同じ靴磨き用のブラシでもA社とB社では仕様に多少の違いがあるので、そうなると製品の数はどんどん増えていきますよね。
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