5代目の手による石塚染工:江戸小紋の新しい時代
2024.01.06
5代目の手による石塚染工:江戸小紋の新しい時代
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東京都八王子市にある石塚染工は、江戸小紋の染元である。石塚染工は伝統的な手作業で伊勢型紙を使用した細かな柄が特徴で、近づいても見えないほど細かい柄がその繊細な美しさを際立たせる。
1890年に創業し、現在は5代目である石塚久美子さんは日本の伝統的な染色技術を生かしつつ、現代的なデザインや色彩を取り入れた製作に取り組んでいる。
今回は江戸小紋の新たな可能性を広げ、伝統的な染色技術を次世代に継承していく取り組みについて、久美子さんにインタビューを実施した。
PROFILE|プロフィール
石塚 久美子(い��しづか くみこ)
石塚 久美子(いしづか くみこ)

石塚染工 5代目

伝統工芸を続けることの素晴らしさ

はじめに、石塚染工の創業について教えていただけますか?
石塚染工は、初代石塚梅次郎が明治23年頃に小田原で染物業として立ち上げました。初代から2代目の金次郎までは江戸小紋ではなく、柄も大きくて色鮮やかな豪華な着物を製作していました。

その後、拠点を現在の八王子に移し、3代目の私の祖父である健吉の代になると、シンプルな着物が求められるようになり、江戸小紋の型紙を仕入れて製作を始めました。しかし、江戸小紋は柄の大きさや細かさがさまざまであるため、祖父の代は極と言われる細かな柄までは製作していませんでした。

その後、父である4代目の幸生の代で極鮫や縞を製作するようになり、今は私が5代目として引き継いでいます。

江戸小紋は途中から始められたんですね。
そうなんです。江戸小紋は同一の柄を1色で染めるのが基本ですが、私の父の代ではパーティーやお祝い事にも着られるような訪問着や、自分で柄を組み合わせてデザインする絵羽などもたくさん製作していました。

父は若い頃に図案や配色、着物のデザインの一部を自分で手描きで描き上げていたりもしました。当時はいろいろなことに挑戦していたようですが、時代の流れとともに、極鮫や縞などの難易度の高い江戸小紋に特化していくようになったんです。

明治30年に八王子に移転した理由や背景は何でしょうか? きれいな水が流れる浅川が近くにありますよね。
江戸小紋の製作には、染色した布を水洗いする工程が必要です。この工程は川の近くでなければできないため、川の近くに移り住んだのだと思います。

ゆえに石塚染工も水洗いのために八王子のなかでも浅川のあるこの地に工房を構えたのだと思います。
型付けした後、型付けのムラを調整する4代目石塚幸生氏(経済産業大臣認定伝統工芸士、東京都マイスター)
型付けした後、型付けのムラを調整する4代目石塚幸生氏(経済産業大臣認定伝統工芸士、東京都マイスター)
久美子さんが家業を継ぐきっかけはどんなところにあったのでしょうか?
幼い頃から伝統工芸に触れ、物作りや手仕事が好きで育ってきました。大学では日本画を学び、その思いをさらに深めました。

しかし家業に携わりたいと父に伝えても、父は時代が変わり、着物業界も厳しくなっていることを懸念し、私に社会経験を積んでから、本格的に着物の仕事に就くように勧めました。

その後、アパレル関係の会社に就職しました。しかし、やはり物作りを通して着物の仕事がしたいという気持ちは諦めきれず、2年後に退職し、父に再び家業を継ぎたいと伝えました。

そして、2年後に私が改めて意志を伝えたとき、「趣味程度なら工房で働いてもいい」と言われました。

当時は震災の年で、仕事がなくなるかもしれないという不安がありました。バイトと家業を両立させながら、1年ほどは不安定な状況でしたね。思っていたよりも大変でした。

当時、2つの仕事を掛け持ちしていたことで、体調を崩したこともありました。型紙の性質からくる縮みも考慮しながらの作業で、夏場に冷房のない部屋で作業するのは特に大変でした。

当初は、父と祖父の仕事のすごさを十分に理解できていませんでしたが、自分が携わるようになった今はそのすごさを肌で感じるとともに、伝統工芸を続けること自体が素晴らしいことだとも感じています。
江戸小紋染めの技術をどのように受け継いできたのでしょうか?
着物の生地に柄や文様を染めるために使う“染め型紙”のことを伊勢型紙と言います。江戸小紋の製作は、この型紙をつなぎ合わせる作業から始まります。

型紙は柄の種類が多く、細かな柄が多いため、すぐにはこの作業を任せてもらえませんでした。

そこで、まずは大きな柄で木綿の手ぬぐいから始め、柄のつなぎ合わせ方や色の調合を練習しました。そこから徐々に浴衣の製作に移り、絹の生地や細かい柄にも挑戦するようになりました。
色の組み合わせを記録しているノート。膨大な数の色の調合レシピがあるという
色の組み合わせを記録しているノート。膨大な数の色の調合レシピがあるという
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