一枚の皿が届くまで 波佐見焼を支える職人たちの「静かなリレー」
2025.08.12
一枚の皿が届くまで 波佐見焼を支える職人たちの「静かなリレー」
リンクをコピーしました
※音声読み上げ機能はAI生成のため、
読み間違いが発生する場合があります。
私がこの取材を決めたのは、ある日、手に取った一枚の皿がきっかけでした。驚くほど薄く、軽いにもかかわらず、どこか頼もしさを感じるその器。その滑らかな白磁の肌に浮かぶ深い藍色の文様は、多くの人の日常に寄り添ってきたであろう、静かな自信に満ちているように感じられました。
この一枚の皿が、一体どのような場所で、どのような人々の手を経て、私の元まで届いたのか。その背景を知りたいという純粋な好奇心が、私を長崎県東彼杵郡波佐見町へと向かわせました。そこで目の当たりにしたのは、ひとつの工房で完結するのではなく、町全体がひとつの生命体のように連携する、壮大なものづくりのリレーでした。

すべては精密な「型」から始まる

波佐見焼のものづくりは、粘土をこねることからではなく、製品の最終的な品質を決定づける、極めて知的な工程から始まります。それは、量産のための原型となる「石膏型」の製作です。

この工程を専門に担う「型屋」と呼ばれる職人たちがいます。彼らの仕事は、デザイナーが描いた図面を、3次元の立体へと正確に展開することです。

粘土は焼成を経ると11%から14%も収縮します。型屋は、この焼き上がりの収縮率をあらかじめ精密に計算し、完成形よりも一回り大きな型を設計しなくてはなりません。縁のわずかな反り、高台の繊細な角度、それらすべてが最終製品の使いやすさや美しさに直結します。

型の出来栄えが製品の品質そのものを左右するといっても過言ではなく、この最初の工程に、波佐見焼がただの工芸品ではなく、緻密な設計思想に基づいた工業製品でもあるという側面が表れています。1つの型が、これから生まれる何千、何万という器の運命を握っているのです。

この記事をシェアする
リンクをコピーしました