波佐見焼のものづくりは、粘土をこねることからではなく、製品の最終的な品質を決定づける、極めて知的な工程から始まります。それは、量産のための原型となる「石膏型」の製作です。
この工程を専門に担う「型屋」と呼ばれる職人たちがいます。彼らの仕事は、デザイナーが描いた図面を、3次元の立体へと正確に展開することです。
粘土は焼成を経ると11%から14%も収縮します。型屋は、この焼き上がりの収縮率をあらかじめ精密に計算し、完成形よりも一回り大きな型を設計しなくてはなりません。縁のわずかな反り、高台の繊細な角度、それらすべてが最終製品の使いやすさや美しさに直結します。
型の出来栄えが製品の品質そのものを左右するといっても過言ではなく、この最初の工程に、波佐見焼がただの工芸品ではなく、緻密な設計思想に基づいた工業製品でもあるという側面が表れています。1つの型が、これから生まれる何千、何万という器の運命を握っているのです。