水引の結び方とその意味──心を伝える日本の伝統工芸
2025.07.30
水引の結び方とその意味──心を伝える日本の伝統工芸
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私たちの暮らしの中には、古くから受け継がれてきたささやかで美しい習慣が息づいている。贈りものにそっと結ばれる「水引(みずひき)」も、そのひとつである。祝儀袋や進物の上で、紅白や金銀の細い紐が織りなす繊細な結びは、単なる装飾ではない。そこには、相手を思う気持ちや、贈りものに込められた意味を伝える、日本ならではの奥ゆかしい心が表現されている。
この記事では、工芸品に興味を持ち始めた方々に向けて、水引の歴史から結び方の意味、そして現代における楽しみ方まで、その魅力を深く解き明かしていく。水引の世界を知ることは、日本の文化の豊かさに触れ、日々の暮らしに彩りを添えるきっかけとなるだろう。

人と人を結ぶ祈りの造形、水引の起源

水引の起源は、遠く飛鳥時代にまで遡る。607年、遣隋使として大陸に渡った小野妹子が帰国する際、隋からの返礼の品々に、航海の無事を祈って紅白の麻紐が結ばれていた。これが、日本における水引の始まりとされている。以来、宮中への献上品には紅白の紐を結ぶ慣わしが定着した。当時は「くれない」とも呼ばれていたという。

やがて室町時代になると、素材は麻から和紙へと変化する。細く切った和紙を縒(よ)って作った紙縒り(こより)に、水のりを引いて乾かし固めたことから、「水引」の名が生まれたとされる説は有力だ。この製法によって、しなやかで張りのある独特の質感が生まれ、より複雑で美しい結びの表現が可能となったのである。

江戸時代には、武士階級だけでなく、商人や農民の間にも贈答の習慣が広まり、水引は庶民の暮らしに深く根付いていった。単なる紐が、相手への敬意や真心を示す象徴へと昇華した瞬間であった。それは、目に見えない「心」を形にしたいと願う、日本人の美意識の表れと言えるだろう。

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