水引の起源は、遠く飛鳥時代にまで遡る。607年、遣隋使として大陸に渡った小野妹子が帰国する際、隋からの返礼の品々に、航海の無事を祈って紅白の麻紐が結ばれていた。これが、日本における水引の始まりとされている。以来、宮中への献上品には紅白の紐を結ぶ慣わしが定着した。当時は「くれない」とも呼ばれていたという。
やがて室町時代になると、素材は麻から和紙へと変化する。細く切った和紙を縒(よ)って作った紙縒り(こより)に、水のりを引いて乾かし固めたことから、「水引」の名が生まれたとされる説は有力だ。この製法によって、しなやかで張りのある独特の質感が生 まれ、より複雑で美しい結びの表現が可能となったのである。
江戸時代には、武士階級だけでなく、商人や農民の間にも贈答の習慣が広まり、水引は庶民の暮らしに深く根付いていった。単なる紐が、相手への敬意や真心を示す象徴へと昇華した瞬間であった。それは、目に見えない「心」を形にしたいと願う、日本人の美意識の表れと言えるだろう。