【第1回】人間国宝・前田昭博の幼少期と工芸との出会い
2025.12.01
【第1回】人間国宝・前田昭博の幼少期と工芸との出会い
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焼き物はひとつの文化と言えるほど、日本では馴染みの深いものだ。備前焼や越前焼といった陶磁器の愛好家は多く、プロアマ問わず収集され、鑑定番組も人気を博している。その陶磁器の中でも、ひときわ目を引く真っ白な磁器を白磁という。日本では有田焼がその源流として広く知られ非常に人気のある磁器だが、現在日本では絵付けがされることが多く、純粋に真っ白な白磁を制作する人は限られている。
その白磁の技術保持者として人間国宝となった前田昭博さん。轆轤(ろくろ)を挽き続け、自分の中にあるイメージを反映させた作品の数々は、真っ白で光沢のある質感の中に現代性を感じさせる曲線美が融合し、そこには見る人によってさまざまな風景が浮かび上がってくる。前田さんの作品は高い評価を受け、国内外の美術館で広く展示されてきた。
第1回の配信では、前田さんの工芸との出会いをお送りする。人間国宝となる人物の幼少期は、どのようなものだったのか。
PROFILE|プロフィール
前田 昭博(まえた あきひろ)

1954年 鳥取県八頭郡(現・鳥取市)河原町生まれ
1977年 大阪芸術大学工芸学科陶芸専攻卒業
1991年 第11回日本陶芸展「優秀作品賞」受賞
1997年 第10回MOA岡田茂吉賞展「優秀賞」受賞
1999年 鳥取市文化賞受賞
     第47回日本伝統工芸展「朝日新聞社賞」受賞
2003年 第50回日本伝統工芸展「第50回展記念賞」受賞
2004年 2003年度 日本陶磁協会賞受賞
     第61回中国文化賞受賞
2005年 第60回新匠工芸展「60回記念大賞」受賞
2007年 紫綬褒章 受章
2010年 鳥取県文化功労賞受賞
2013年 重要無形文化財「白磁」保持者認定
2020年 2019年度 日本陶磁協会賞金賞受賞
2024年 旭日小綬章 受章

日本工芸会 参与
大阪芸術大学 客員教授
重要無形文化財「白磁」保持者

父の後ろ姿

前田さんの工房は、生まれた土地である鳥取市河原町にある。窯元の名前である「やなせ窯」は、工房の背にある梁瀬山が由来となっている。冬になると辺り一面が雪に囲まれるというこの地域の自然美が、前田さんが生み出す白磁の着想源になっていることは容易に想像できる。

豊かな自然に囲まれたこの町で、前田さんはどのような幼少期を送ってきたのだろうか。

「僕が小学校3年生くらいの頃でしたかね。小学校の教員だった父が、趣味で木版画を始めたんですよ。家族で夕食を食べた後に、仕事場に籠もって、ひとりで彫刻刀で彫ったり試し刷りをしたりしていました。版画づくりに没頭する父の後ろ姿を見て、すごく楽しそうだなと子どもながらに思ったものです。

普通なら仕事をして帰ってきた後ですから、クタクタなはずなんですけどね。それなのに、なぜか楽しそうにしている姿が印象的で、僕もそういうことができたらいいなと子ども心に思っていました。これが美術に触れる最初の経験だったと思います」

いわゆるサラリーマン家庭の何気ない日常の一コマが、前田さんの心に響いた瞬間だった。作品の芸術性やその評価ではなく、純粋に作品を作ることへの憧れが根底にあった。

豊かな自然の中にある前田さんの工房とギャラリー
豊かな自然の中にある前田さんの工房とギャラリー