南部鉄器が岩手の地で発展した背景には、鋳物づくりに必要な全ての要素がその土地に揃っていたという、地理的な必然性がありました。
山々から採れる木炭を燃料とし、北上川の川砂と粘土で鋳型(いがた)を作る。そして、鉄器という工芸品の核となる主原料「鉄」もまた、かつては地 域で産出される良質な「砂鉄」によって賄われていました。
地域で採れた砂鉄を、地域の職人が、地域の燃料を使って加工し、人々の生活を支える道具を生み出す。これは、現代の視点から見れば、極めて理想的な地産地消のサイクルが確立されていたことを意味します。
工芸品がその土地の文化や経済と不可分に結びついていた時代の姿が、素材の出自から浮かび上がります。この揺るぎない基盤があったからこそ、南部鉄器はその品質を高め、独自の発展を遂げることができたのです。
