鉄と漆:南部鉄器の素材に見る、土地の恵みと時代の選択
会員限定記事2025.12.04
鉄と漆:南部鉄器の素材に見る、土地の恵みと時代の選択
※音声読み上げ機能はAI生成のため、
読み間違いが発生する場合があります。
リンクをコピーしました
私たちが日々使う道具、その素材がどこから来たのか、どのような歴史を辿ってきたのかに想いを馳せることは、それ自体が暮らしを豊かにする一つの視点だと感じます。
今回、南部鉄器の取材を通して見えてきたのは、その質実剛健な佇まいを支える「鉄」という素材の、決して平坦ではない道のりでした。
かつての理想的な地産地消の姿から、現代的な課題に直面する現在まで、素材の変遷は工芸のあり方そのものを映し出しています。本稿では、職人や作り手の言葉を手がかりに、南部鉄器の根幹をなす素材の物語とその未来について考察します。

土地の恵みから生まれた工芸の源流

南部鉄器が岩手の地で発展した背景には、鋳物づくりに必要な全ての要素がその土地に揃っていたという、地理的な必然性がありました。

山々から採れる木炭を燃料とし、北上川の川砂と粘土で鋳型(いがた)を作る。そして、鉄器という工芸品の核となる主原料「鉄」もまた、かつては地域で産出される良質な「砂鉄」によって賄われていました。

地域で採れた砂鉄を、地域の職人が、地域の燃料を使って加工し、人々の生活を支える道具を生み出す。これは、現代の視点から見れば、極めて理想的な地産地消のサイクルが確立されていたことを意味します。

工芸品がその土地の文化や経済と不可分に結びついていた時代の姿が、素材の出自から浮かび上がります。この揺るぎない基盤があったからこそ、南部鉄器はその品質を高め、独自の発展を遂げることができたのです。


この記事は会員限定です。
登録すると続きをお読みいただけます。
会員登録でできること
  • 会員限定記事の閲覧、
    音声読み上げ機能が利用可能
  • お気に入り保存、
    閲覧履歴表示が無制限
  • 会員限定のイベント参加
  • メールマガジン配信で
    最新情報をGET