南部鉄器が岩手の地で発展したもっとも根源的な理由は、鋳物づくりに不可欠な複数の資源が、驚くほど狭い地域に集中して存在していたという地理的優位性にあります。
ある伝統工芸士は取材に対し、「全ての材料がこの岩手の土地に集まることができた」と語ります。この言葉が示すように、岩手はまさに鋳物づくりのための「天与の地」でした。
具体的には、まず主原料となる良質な砂鉄や鉄鉱石が、北上山地から豊富に産出されました。
次に、溶かした鉄を流し込む鋳型(いがた)の製作に欠かせない川砂と粘土は、地域の中央を流れる北上川の流域で容易に入手可能でした。
さらに、鉄を溶かすための燃料となる木炭も、周囲に広がる豊かな森林資源が潤沢に供給しました。そして仕上げの着色と錆止めに用いられる漆(うるし)も、岩手県が国内生産量の大部分を占める一大産地となっています。
このように、主原料の鉄、鋳型の材料である砂と粘土、燃料の木炭、そして仕上げ材の漆という、鉄器という工芸の成立に必要な全ての要素が、この土地で自給自足できたのです。
外部からの供給に頼ることなく、地域内で生産サイ クルを完結できたこの環境こそが、南部鉄器が400年以上にわたって安定的に生産を続けられた、揺るぎない基盤であると言えるでしょう。
