土佐打刃物のデザインを理解する上で重要な概念が「用の美」です。これは、華美な装飾によってではなく、実用性を極限まで追求した結果として必然的に現れる、機能的なフォルムや素材の質感そのものに美しさを見出すという日本独自の美意識です。
土佐打刃物の多くは、この思想を色濃く反映しており、そ の姿は刃物であると同時に、厳しい自然環境と向き合ってきた人々の歴史が刻まれた工芸品としての風格を備えています。
また、土佐打刃物の特徴である自由鍛造(たんぞう)は、職人の手仕事によって一本一本が生み出されることを意味します。そのため、工業製品のように完全に均一なものは存在せず、わずかな鎚(つち)の痕や焼き色の違いといった個体差が生まれます。この「不均一性」こそが、それぞれの刃物を唯一無二の存在たらしめており、使い手が自分だけの1本を「育てる」という感覚を持つことに繋がります。
デザインを選ぶことは、単に見た目の好みで選ぶだけでなく、こうした背景にある思想や物語性を受け入れることでもあるのです。