岐路に立つ日本の芸術と文化 -国家のアイデンティティの源泉としての、日本の伝統保存と進化-(デビット・スタンリー・ヒューエット)
2024.07.31
岐路に立つ日本の芸術と文化 -国家のアイデンティティの源泉としての、日本の伝統保存と進化-(デビット・スタンリー・ヒューエット)
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PROFILE|プロフィール
デビット・スタンリー・ヒューエット
デビット・スタンリー・ヒューエット

日本で著名な芸術家の一人である。ヒューエットの代表作品群である「武士道シリーズ」は日本史をテーマに制作されており、金箔と明るい色彩を背景にしたキャンバスに叩き付けられた絵の具はまるで刀身が描く弧の様であり、作品からは活力と情熱が感じられる。

 2017年11月には、「Majime(まじめ)」と題した絵画作品が当時の安倍昭恵内閣総理大臣夫人からアメリカ大統領夫人への贈呈品に選出され、2019年にアメリカ合衆国国立公文書館に収蔵された。

 彼の作品は、ザ・リッツ・カールトン京都、帝国ホテル東京、ペニンシュラホテル東京、ザ・オークラ東京、オークウッドプレミア東京、在日米国大使館、公共及び私有コレクションとして世界中で所蔵されている。

ヒューエット・アートギャラリー公式サイト
問い合わせ先:info@hewett.jp

国家安全保障としての文化

1961年、ジョン・F・ケネディは就任演説で「あなたの国があなたのために何ができるかを問うのではなく、あなたがあなたの国のために何ができるかを問うてほしい」と述べた。この言葉は、日本の文化財や文化的な習慣の保護と活性化に関して、今日の日本国民に投げかけるべき問いであると考える。

日本の文化財や儀礼の保護と活性化は、国家の安全保障に関わる問題である。少々危機感を煽るように聞こえるかもしれないが、私は日本独自の歴史、芸術、食文化、礼儀作法の重要性を再評価する必要があると心から信じている。これらは観光がもたらす経済効果としてだけでなく、強くたくましい文化がもたらす日本国民としてのアイデンティティや誇り、喜びといった感覚にとっても重要なのだ。

日本の歴史、芸術、文化は、国のアイデンティティや日本人のアイデンティティと切り離せない。物理的な文化財、神社、寺院、城、芸術品、工芸品だけでなく、礼儀作法、話し方、ジェスチャー、そして日本人のコミュニケーションに浸透している謙虚さなど、すべてが日本文化のアイデンティティに不可欠な要素である。

日本文化への長年の愛と尊敬

アメリカで育った10代の頃、初めて日本文化に触れた瞬間から、私はその魅力に引き込まれ、日本文化についてもっと知りたいと思うようになった。その情熱は、日本での30年の生活を経て、さらに強くなっている。
私は、日本をはじめ世界中のアーティストやブランドとコラボレーションし、日本の素晴らしいアーティストや職人にスポットライトを当てることをライフワークとしてきた。

アーティストとして、また新米の歴史家として、30年にわたり日本全国を旅して、展覧会を開催してきた。九州から北海道まで、神社仏閣やアーティストのアトリエを訪れることができるのは、とても幸運なことだ。日本には実にさまざまな工芸品があり、職人たちの仕事に対するひたむきさや鍛錬に畏敬の念を抱かずにはいられない。この30年間、日本のアーティストたちからインスピレーションを受け、多くの素晴らしいクリエイターと時間をともにしたことで、私自身もより良いアーティストになりたいと強く願うようになった。

昨年、私は世界最大のジャパニーズ・ウイスキーのオンライン販売会社である「デカンタ」から、20年熟成の軽井沢ウイスキーの販売を記念したアート作品の制作を依頼された。そこで、石川・輪島の「田谷漆器店」と共同で、漆器職人と大阪にある「酒井硝子」とのチームを結集し、軽井沢ウイスキーが入ったボトル3本を展示する「アクレイム・ウイスキー・ステージ」を作り上げた。これらは50セット製作され、昨年の3月にニューヨークでオークションにかけられた。
デビット・スタンリー・ヒューエット氏と「アクレイム・ウイスキー・ステージ」
デビット・スタンリー・ヒューエット氏と「アクレイム・ウイスキー・ステージ」
また、2017年からはオーストリアのワイングラスメーカー「リーデル」のグラスとデキャンタのデザインを行っている。毎年、金沢の「箔一」が作る金箔を用いた新シリーズをデザインしており、グラスは日本全国の店舗で販売されている。
2022年、東京でプーマが開催するファッションショー(PUMA 75th Anniversary “Forever.Faster.” THE SHOW)のための靴のデザインを依頼された。世界中の人々が集まったこのショーにあわせて、私は金沢の金箔を使った靴を制作した。箱も靴紐も、そしてもちろん金箔も、すべてのパーツが日本製だ。

このようなコラボレーションは、日本の職人技を際立たせながら、若い観客にも関心を持たれ続けるための素晴らしい方法である。
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