手漉き和紙の挑戦:�現代を貫く制作の技(エベン・エミリ)
2024.10.31
手漉き和紙の挑戦:現代を貫く制作の技(エベン・エミリ)
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PROFILE|プロフィール
エベン・エミリ
エベン・エミリ

2012年に来日して以来、日本の伝統的な紙である和紙に深い情熱を抱くようになった。その技術的な側面と、温かみのある素材の背景にある人間的なつながりに惹かれ、この情熱を仕事として追求することを決意した。
さまざまな工房を訪れ、職人たちと交流しながら和紙についての見識を深め、その技術を日本国外に広める活動を行っている。
日本の職人と和紙愛好家の間のギャップを埋めたいという願いから、オンラインショップ「Hariko Paper」をオープン。和紙のユニークな特性を理解し活用することに関心のあるアーティストにアドバイスやコラボレーションを提供し、日本の職人と訪問するクリエイターとの橋渡しも行う。
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2008年、私は京都にある有名な和紙専門店、紙司柿本を訪れました。紙司柿本では、何百種類もの美しい和紙が販売されています。何世紀にもわたって磨き上げられた技術によって、職人たちが真摯に和紙作りに取り組んでいる様子に、私は強く心を惹かれました。彼らの仕事には謙虚さとともに、誇りも感じられました。それ以来、私は、シンプルでありながら見事なまでに精巧に作られた素材の背後にある素晴らしい職人技について、自分なりの方法で広く伝えていきたいと思うようになりました。

和紙工房を訪問するなかで、職人たちが口を揃えて「仕事が大変なだけでなく、経済的に自立するのが難しい」と話すのを聞いて胸が痛みました。工芸技術は衰退しつつあり、その存続は、業界が数十年にわたって直面してきた重要な問題です。長年にわたる職人たちとの会話から、克服すべき課題の概要、職人たちがこれまでどのように努力してきたか、そして危機に直面したうえで現在どのような試みがなされているかを紹介したいと思います。

課題

主に楮(こうぞ)を原料とする和紙は、三椏(みつまた)や雁皮(がんぴ)の繊維も加えられ、非常に手間のかかる工程を経て作られます。 蒸して皮を剥いだ後、職人はそれをアルカリ性の水溶液が入った浴槽で煮たり、洗浄したり、日光に晒して白くしたり、さらに繊維の白さと品質を保つために、念入りに手作業で小さい塵を取るなどして、白い繊維を紙パルプに変えます。繊維を叩解した後、職人は簀桁(すげた)を使って漕の中でパルプをすくい上げ、シート状になるように紙を漉きます。多くの職人は、植物を栽培しており、すでに大変なこの工芸にさらなる困難が加わります。和紙職人は、肉体的に厳しい作業、地方ゆえの孤立感、予測できない自然の脅威、ニッチ市場での事業運営の難しさに耐えなければなりません。

上述の工程は、何世紀にもわたって受け継がれてきた伝統的な和紙の製造方法とされています。しかし、明治時代(1868年~1912年)に西洋式の製紙方法が導入されて以来、手漉き和紙職人の数は激減しました。1960年代から70年代にかけて、地方の過疎化が追い打ちをかけ、さらに打撃を受けました。
上田康正氏 / 上田手漉和紙工場:横野和紙工房(岡山県津山市)
上田康正氏 / 上田手漉和紙工場:横野和紙工房(岡山県津山市)
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