予期せぬ旅
2024.07.31
予期せぬ旅
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PROFILE|プロフィール
ラッジ・ジェフ
ラッジ・ジェフ

スイス生まれフランス育ちの提灯職人。
旅行中に知り合った妻との結婚を機に2005年に来日。
義父が立ち上げた茨城県那珂市にある提灯づくりの工房「飯島工作所」にて2017年より提灯の制作に携わり、2021年に工房を引き継ぐ。現在は1人で大型提灯や祭り用団扇を制作する。
趣味はゴルフ、サッカー、ステンドグラスとガラスフュージョン作り、ランタンもサイドプロジェクトとして制作。

私の名前はジェフです。茨城県で提灯職人になり7年が経ちます。
大型の提灯(火袋)と祭り用のうちわを専門に作っています。私が行っているのは火袋の制作のみで、商品の販売は行っていません。出来上がった火袋は問屋に送り、そこで絵付けや最後の仕上げをして提灯が完成します。

義父は2年前に引退するまで、40年以上提灯を作っていました。2016年頃から引退の話が出始め、話をするうちに、このような仕事をする人が少なくなってきていることを知りました。私はもともと物作りが好きで、ステンドグラスを作るのが趣味だったこともあり、面白いことをするチャンスだと思ったのです。提灯作りの話を聞けば聞くほど魅力を感じ、2017年に思い切って新しい生活をスタートさせました。

提灯の製造工程

まず竹を適度な長さに切り、縦に割きます。続いて竹ひごの節の部分を削り、厚さを揃えます。この工程は、以前は手作業でしたが、現在は機械で行っています。

次に、6mm〜16mmの間で竹ひごの幅を決めます。幅は提灯の大きさによって異なり、提灯が大きければ大きいほどしっかりと支えるために竹ひごの幅を広くする必要があります。私が見習いを始めた頃は、これも手作業で行っており骨の折れる作業でした。現在は負担を軽減し効率を上げるために機械を導入しており、工房に素晴らしい効果をもたらしてくれています。
そして、かんなを使って竹ひごの皮を剥ぎます。この工程なしでは、糊が竹にくっつかないのです。ここまできて、ようやく提灯を作り始めます。

続いて竹ひごの端と端を小さな和紙でつなぎ合わせ、両手を使ってできるだけきれいに丸く曲げていきます。提灯がデコボコにならないように、竹をできるだけきれいな円形にすることが重要です。

次に丸くした竹ひごをひとつずつ型にはめていき、継ぎ目を調整し紐で固定します。最後に和紙を竹に貼っていきます。一晩乾燥させたら型から外し、完成です。出来上がった提灯を畳んで出荷します。

提灯の製造工程自体はそう難しくはありませんが、きれいに作るのは簡単なことではありません。それはどんな工芸品でも同じだと思います。

提灯(火袋)を作るのにどれくらい時間を要するのかよく聞かれますが、竹の準備から出荷まで、小さい提灯では2日、大きいものでは1週間ほどかかります。

学習曲線

新しいことは何でもそうですが、提灯作りを学ぶのは長く険しい道のりで、各工程には乗り越えなければならない壁がありました。最初の壁は竹を均等に割る作業でした。均等に割ったほうが使いやすいのですが、初めは10本に割ろうとすると、太い7本と細い3本になってしまいます。

何度も試行錯誤を繰り返した末に、ようやくうまくできるようになりました。私は、この経験をよくマニュアル車の運転に例えます。クラッチ・コントロールが一番難しいけれど、一度覚えてしまえばあとは簡単!

もうひとつの難題は、丸めた竹ひごを型にはめていく作業でした。きれいな提灯は竹ひごの間隔が均等です。目印がついている型もありますが、古くなると目印がずれてしまうことがあるので、目測で竹ひごの間隔を決めます。私は今でも、街を歩いていて提灯を見かけるとまずそこに目が留まります。
竹は天然素材で、それぞれ特徴があります。たとえば、ある竹は他の竹よりも硬く柔軟性に欠け、またある竹はまっすぐではないので調整が必要です。これが私の仕事の面白さだと感じています。それぞれの竹の感触が違うため、私が作る提灯はどれもユニークです。だから何回作っても飽きません。

私にとってもうひとつの興味深い挑戦は、日本式の「長さ」の測り方について学ぶことでした。ヨーロッパから来た私は、いつもセンチメートルで物を測っていましたが、尺、寸といった単位をを学ばなければなりませんでした。慣れるのに少し時間がかかりましたが、今ではコツをつかんだと思います。

この仕事を生業にできるのは幸運なことです。この仕事の楽しみのひとつは、提灯(火袋)が完成するたびに、自分の進歩が目に見え、達成感を得られることです。提灯を作るたびに、常に完璧なものを追い求めて次への挑戦が始まります。外国人としてこの仕事をしている以上、一つひとつ精一杯作らなければならないと思っています。

1人で仕事をしているので、時間を効率よく使うことは仕事をスムーズに進めるうえでとても重要です。普段は、音楽や歴史のポッドキャストを聴きながら仕事をしています。

つい先日大きな提灯を作っていた際、涼しい風が工房を通り抜けて清々しい気分になりました。提灯が出来上がっていく様子を眺めながら、本当に素晴らしい仕事だと思いました!
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