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現代のバックパックの原型を作った「KELTY(ケルティ)」の70年以上受け継がれる機能性
バックパックの骨格となるアルミフレームや、肩への負荷を腰へ分散するウエストベルトなど。現在では当たり前となった仕様の原型を生み出し、世界で初めて「CORDURA®(コーデュラ)」ナイロンをバックパックに採用したブランドが「KELTY(ケルティ)」だ。
1952年の創業以来、プロの冒険家を支える道具から日常のデイパックまで、時代に合わせて姿を変えながらも、機能性を起点とするものづくりは変わらない。
今回はアリガインターナショナル株式会社の副社長 有賀 健人氏に、70年以上続くブランドの歩みと、その哲学を聞いた。
木製フレームのアップデートから始まったKELTY
KELTYの物語は1952年、南カリフォルニアで始まった。創業者ディック・ケルティ氏は山登りを愛する一方、当時市場に出ていたバックパックに不便さを抱いていた。木のフレームにキャンバス生地を組み合わせたバックパックは、重く、硬く、背負い心地もよくなかった。第2次世界大戦中、ディック氏は航空機メーカーのロッキード社で爆撃機の改修に従事し、アルミニウムなど軽く丈夫な素材の知識を得ていた。終戦後は大工として働いていたが、自らが登山で感じた不満とその知見を結びつけ、「それなら自分で作ろう」とバックパック作りを始める。

写真 向かって右:アルミ加工をする様子、写真は1970年代のもの
アルミフレームとウエストベルト、現代につながるバックパックの原型
最初の革新はフレームだった。重く加工しにくい木材に代えてアルミニウムを採用。軽量で体の曲線に合わせて曲げられるため、フィット感を大きく向上させた。さらにキャンバス生地の代わりとして、パラシュートの端材だった軽く丈夫なナイロンを組み合わせる。現在のバックパックの基礎につながる構造がここで生まれた。もう一つがウエストベルトだ。友人がフレームの先端をズボンの後ろポケットに差し込み、「こうすると軽くなる」と話す姿を見たディック氏は、荷重を肩だけでなく腰へ逃がす仕組みを着想した。
「それだったら、ここにウエストベルトをくっつけて、腰にも重さを逃がそうと。付けてみたところとても好評で、これは商売になるのではないかと考えたのです」
妻と2人で始めたバックパック製作は1952年の29個から翌年は90個、評判は広がりさらに翌年には220個へ増加。やがて工場を構え、本格的な事業へと発展していった。


エベレストや南極遠征にも選ばれたKELTYのバックパック
KELTYのバックパックは、やがてプロフェッショナルからも信頼を集める。象徴的なのが1963年。アメリカの登山チームがKELTYの「FRAME PACK(フレーム パック)」を背負い、当時困難とされた西側ルートからのエベレスト登頂に成功した。1966年には南極大陸で活動するアメリカのチームにも採用されている。ヒマラヤから南極まで、過酷な環境で用いられた実績は、KELTYが単なる使いやすいバッグではなく、耐久性と機能性を備えたギアであることを如実に示した。創業から10年余りで、個人としてのものづくりからプロが信頼するブランドへと成長したのである。
こうした実績はブランドの知名度を押し上げるだけでなく、創業時から追求してきた「背負う人の負担を減らす」という考えが、実際のフィールドでも有効であることを裏付けるものとなった。

プロ向けギアから日常のデイパックへ
1970年代、バックパックの主流はフレームが外側に露出する「エクスターナルフレーム」から、内部に収納する「インターナルフレーム」へ移っていく。同じ頃、KELTYは、プロ向けギアで培った知見を生かし、日常使いのデイパックなどへ製品の幅を広げていった。プロが認めた機能を、より多くの人が使えるシンプルなデザインへ落とし込む。この転換によって、KELTYは登山やハイキングだけでなく、街でも愛されるブランドへと領域を広げていく。フィールドからタウンユースまで支持される現在のKELTYにつながる大きな転機だった。
もともと極限環境のために磨かれた合理性が、日常では使いやすさとして機能する。用途が変わっても、道具としての本質を優先する姿勢は揺らがなかった。
ティアドロップ型と「CORDURA®(コーデュラ)」素材を受け継ぐ「DAYPACK(デイパック)」
その哲学を象徴するのが、ブランドのアイコン「DAYPACK(デイパック)」だ。フォルムは底が広く、上部へ向かって細くなる「ティアドロップ型」が特徴的だ。素材にも歴史がある。製造元のINVISTA(インビスタ)社にとってKELTYはCORDURA®ナイロンを世界で初めてバッグに採用した顧客でもあったという。
現在も「ビンテージライン」の定番モデルにはコーデュラ素材が使われ、その伝統を受け継いでいる。長く使える耐久性を備えながら、日常にもなじむ。その素材選びにも、KELTYが長年重視してきた実用性が端的に表れている。
一方、クラシックな外観に対し内部構造は現代に合わせて更新されている。複数のポケットが付いた小物用オーガナイザーを備え、ショルダーハーネスにはへたりにくいEVAのクッションパッドを内蔵。見た目を大きく変えるのではなく、時代に合わせて使いやすさを進化させる姿勢にも、機能を優先するKELTYらしさが表れている。
定番の「FANNY(ファニー)」シリーズも同様だ。もともとは登山やスキーで地図や軽食を携帯するためのウエストパックだったが、持ち物が小型化した現在は日常のバッグとして再び支持されている。いくつかあるサイズのなかでも、「MINI FANNY(ミニ ファニー)」は用途の変化に応じて定番が更新された一例だ。





現代のライフスタイルから生まれた小型バッグ
近年のKELTYでは、企画チームにより現代的な製品開発も進む。「ES ROUND TOP BAG(イーエス ラウンド トップ バッグ)」に代表される小型ショルダーバッグは2010年代以降に生まれたシリーズで、現代の持ち物や生活に合わせて設計されている。「サコッシュブームのときはもっと小さい容量のものが好まれたと思います。ただ最近は暑くて飲み物を持ち歩くことが多く、これはマチがあるので500mlのペットボトルがしっかり収まります。そういったことも想定して選んでいただいているのかなと思います」
かつて地図やスキーワックスを入れていたバッグは、スマートフォンやミニ財布、ペットボトルを持ち歩くための道具へと、用途は変わっても、その時代の人が何を持ち、どう使うのかを考える姿勢は創業時から変わらない。


写真 向かって右:メッシュ素材のオーガナイザーの仕様
70年以上変わらない「機能から形を考える」という発想
取材の最後、有賀氏はKELTYの核心を「ファンクションが先に来ている」と表現した。まず機能性を考え、それを形に落とし込んだ結果としてシンプルなデザインが生まれる。デザインを先に決めるのではなく、道具として使うための理由から形を導き出す。それは、木製フレームの背負いにくさを解決しようとしたディック氏の発想そのものだ。アルミフレーム、ナイロン生地、ウエストベルトといった要素に始まり、DAYPACKや現代の小型ショルダーバッグまで、その歴史は今も続いている。製品の形や使われる場所は変わっても、「もっと快適な道具を」という考えは70年以上受け継がれている。
KELTYが長く支持されてきた理由は、流行を追うのではなく、使う人のための機能を積み重ね、その結果をシンプルな形にしてきたことにある。
PROFILE

有賀 健人(ありが けんと)
アリガインターナショナル株式会社 取締役 副社長
販売代理店や商社を経て2015年に入社。セールスから企画、広報などさまざまな業務を担当したのち、現在は副社長として全ブランドに携わり成長を促進している。











