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「バックパックを、着る。」フェスから生まれた、コブマスターのレジャーを楽しむ新発想
「バックパックを、着る。」というコンセプトを掲げたベスト、「COB-CR HUMMING PACK VEST」。2026年6月の発売直後から注目を集め、夏を目前にして完売するほどの反響を呼んだ。
どこか懐かしい佇まいを持つイギリスのアウトドアブランド、Cobmaster(コブマスター)。なぜ今、そのプロダクトが現代のアウトドアファンを惹きつけるのか。
コブマスターの企画を手がける斉藤正彦氏への取材を通して、「着るバックパック」という発想が生まれた背景と、そこに込められたブランドの哲学に迫る。
PROFILE
斉藤 正彦(さいとう まさひこ)
株式会社ギャレット
第7事業部2課マネージャー
コブマスターが提案する、もっと気軽なアウトドア
コブマスターは、1971年にイギリスで誕生したアウトドアブランドだ。当時、オレンジやイエローといった鮮やかなカラーや、クマをモチーフにした親しみのあるロゴなど、遊び心を感じさせるプロダクトを展開していた。その後、時代の変化とともにブランドは長い休止期間に入る。
そのコブマスターが日本で再始動したのは2018年。企画を手がける斉藤さんは、リブランディングにあたって残されたアーカイブや資料をたどりながら、ブランドが持っていた個性や魅力を改めて見つめ直したという。鮮やかな色使いやユーモラスなロゴ、当時の商品やカタログなどからは、機能性だけではなく、アウトドアやレジャーを楽しむための遊び心が感じられた。
「当時のものをそのまま再現するのではなく、残されたアーカイブから感じられるコブマスターらしさを大切にしながら、今の時代や日本のライフスタイルに合った形で表現していきたいと思っています」
新生コブマスターが目指すのは、アウトドアやレジャーをもっと身近に楽しむための存在だ。専門的になりすぎず、手に取りやすい価格と品質のバランスを大切にしながら、心が躍るようなデザインやカラフルな色使いを取り入れている。
1970年代のイギリスで生まれたコブマスターの遊び心を大切にしながら、それをそのまま再現するのではなく、現代の暮らしやレジャーに合った形へとつないでいく。それが、現在のコブマスターのものづくりにつながっている。

「フェスで動き回れるバッグが欲しい」一個人の思いから生まれた“フェスベスト”
そんなコブマスターが、「バックパックを、着る。」というコンセプトで生み出したのが「COB-CR HUMMING PACK VEST」だ。バックパックとベストが一体化したこのプロダクトは、発売直後から大きな反響を呼び、夏の大型音楽フェスを前に一度は完売してしまうほどの人気を見せた。
開発のきっかけとなったのは、斉藤さん自身がフェスに足を運ぶ中で感じていた、ちょっとした不便だったという。
「僕が実際個人的に、フェスで動き回れるバッグって何かないのかなと昔から思っていたんです」
そこから考えたのが、フェスやレジャーで気軽に使えて、必要なものを持ち歩きやすいバッグだった。
デザインで意識したのは、コブマスターらしいどこか懐かしさのある雰囲気を残しながら、今の使い方に合った機能を取り入れること。最新のアウトドアギアのようなテクニカルな方向に寄せるのではなく、一見するとシンプルだけれど、使ってみるとちょっと気が利いている。そんなバランスを大切にしながら、コブマスターらしいプロダクトへと形にしていった。
「機能は隠す」——引き算のデザインに込めたレトロな思想
PACK VESTのデザインで意識したのは、必要な機能を取り入れながらも、それを見た目に出しすぎないことだ。たとえば胸元に配したジグザグのゴム。トレイルランニングベストなどにも見られる、身体へのフィット感を高めて揺れを抑えるためのディテールだ。一方で、全体のデザインはテクニカルな印象になりすぎないよう、できるだけシンプルにまとめている。

「見た目はレトロだけど、機能性はちゃんとある、というバランスを大事にしました。走ったときにずれにくいとか、使いやすいとか、必要な機能は取り入れたい。でも、それを必要以上にテクニカルな見た目にはしたくなかったんです。ぱっと見では分からないけれど、使っていくうちに『ここ、こうなっているんだ』と気づいてもらえるくらいがちょうどいいと思っています」
斉藤さんが語るように、このベストには多くの機能が“隠されて”いる。リュック部分の開口部は、一般的な巾着型バッグが必要とする2アクションの動作を、独自の構造で1アクションに短縮できる構造を取り入れている。

また機能性を追求する姿勢は、素材選びにも表れている。採用したのは、コーデュラナイロンにシリコンを含浸させた「コーデュラシルナイロン」。高強度のナイロン糸による優れた耐摩耗性・耐久性に加え、シリコン加工によって水や汚れにも強く、軽量性も備える。見た目からは想像できないタフさもまた、このベストに込められた“隠れた機能”のひとつだ。

ビール缶も入る。使う人の自由を支える徹底した“余白”の設計
使う人のことを考え抜いた設計は、ベストの随所に見て取れる。特にこだわったのは、多様な使い方を受け入れる「余白」のある収納設計だ。胸元のポケットは、スマートフォン(iPhone Pro Max)が収まるサイズを確保しつつ、左右で深さを変えることで、リップクリームのような小物から携帯電話まで、入れるものに応じた使い分けを可能にした。
さらに、ポケットの内側には隠しポケットを配置。斉藤さんによれば、ビールの缶が2本ほど、あるいは形状によっては750ml程度のボトルも入れられるという驚きの収納力を持つ。フェス会場でドリンクとフードを手に持って移動する際のわずらわしさから、ユーザーを解放してくれるだろう。

「携帯じゃなくてそこに缶ビールも入るよねといった、その人の使うシーンや利き腕、癖によってカスタマイズしやすいギミックの設け方を意識しています。トレイルランニングに用いたっていいわけで、日常使いの中でのアレンジ力の幅広さがポイントです」
また、以前同ブランドのショルダーバッグでユーザーから挙がった「体に触れる部分が暑い」という声を反映し、背面にはメッシュパネルを追加。バックパック本体との間に空間を設けることで、上着などを挟めるポケットとして機能するだけでなく、熱を逃がす通気路の役割も果たしている。

体型を問わずフィット。バッグが体の一部になる新しい感覚
このPACK VESTが多くの人に受け入れられたもうひとつの理由が、サイズ展開を「ワンサイズ」に絞ったことだ。体にフィットさせることが重要なトレイルランニングベストの多くは、S・M・Lといったサイズ展開が一般的。しかし、それではアイテムのサイズに体型が合わない人は使うことすらできない。コブマスターは、バックパック作りの知見を生かし、調整テープで幅広い体型をカバーできる設計を採用。これにより、性別や体格を問わず、多くの人が「着る」ことができるようになった。この懐の深さもまた、ブランドが目指す「レジャーの入り口」としての姿勢の表れだ。

「フィールドテストを重ねるなかで、荷物を入れて手に持つとそれなりに重いのに、実際に背負ってみると不思議と重さを感じにくい、ということが分かってきました。こういう部分はスペックだけではなかなか伝わりにくくて、実際に使ってもらうことで感じてもらえる、このバッグの良さのひとつだと思っています」
フェスやキャンプといった特別な日から、何気ない日常まで。あらゆるシーンに溶け込み、体の一部になったかのようなフィット感を提供するPACK VEST。それは、コブマスターが提案する、もっと自由で軽やかな「外遊び」の新しいカタチだ。
「楽しむ」を生み出す。コブマスターがこれから目指すもの
今後もコブマスターは、「相反する要素を両立させるものづくり」を続けていきたいと斉藤さんは語る。見た目はポップなのに機能性は本格的、シンプルなのに奥が深い。そうしたプロダクトを通して、人々の「外に出たい」という気持ちを後押しすることが目標だ。「僕らが作りたいのは、持っていること自体を目的にするようなものではなくて、実際に使うことで、どこかへ出かけたくなったり、外で過ごす時間が少し楽しくなったりするようなものです。アウトドアやレジャーを特別なものとして構えるのではなく、普段の生活の延長で気軽に楽しんでもらえる。プロダクトがそのきっかけのひとつになれたらうれしいですね」
単なる道具ではなく、日常を豊かにするきっかけを届ける。コブマスターの挑戦は、これからも多くの人々の冒険心をくすぐり続けるだろう。
Text by Maho Ueda(altair inc.)














