その後、2022年には新たな商品でカカトが踏める本革ビジネスシューズを謳う「ボーダレス本革シューズ」を開発し、ビジネス作法のタブーに切り込んだ。クラウドファンディングMakuakeで1300万円を超える支援が集まったことは、これまでの商品に人々が不満を持っていたことの現れだろう。 こうした挑戦的な商品展開を行う背景は一体何か。同社グループ広報の小峰菜々子さんに、同社の出発点となったWWSとビジネスシューズを開発するに至った経緯を伺った。
建設業界の作業着の変革
なぜ水道会社がスーツを制作したのだろうか。多くの人が建設業で働く人と聞くと、作業着姿を想像するはずだ。出発点はそのイメージの刷新にあった。「当社の創業10周年記念に弊社社員の作業着を一新するために作成されたのが、WWSです。製作するにあたり、水道工事会社が属する建設業界のマイナスイメージを払拭できるようなデザインを目指しました」
スーツ=ビジネスウェアという固定観念が根強くあるからこそ、作業着が持つ「きつい・汚い・格好悪い・身だしなみが悪い」といった印象を刷新しようという狙いがあった。
そして、昨今のアパレル業界の課題にも配慮した作業着スーツの開発がスタートした。特に大量生産・大量廃棄に対して、どのように対処していくべきかは直近の課題だった。
「今求められている服は、場面ごとに着飾る服ではなく、あらゆる場面を超えて活躍するシンプルで快適で機能的な服だと考えます。そこで『Be Borderless』をブランドスローガンに、作業でも、オフィスワークでも、私服でも、季節やシーンを問わず着用できる高機能かつシンプルなデザインを追求した商品となりました」
デザイン性に優れ、かつ時間や場所にとらわれない普遍的な スーツを目指したことで、同社の社員はいつでもこのスーツを着用して作業をすることができた。さらに、このスーツの特徴が他社の目に止まったことで社外への販売の道がスタートした。
ジャケットはボックス型でゆとりあるシルエットであり、ジップ付きの胸ポケットやペン差しが付いている。パンツもウェストの後ろ部分はゴムになっており、楽に着用できるだけでなく、右太もも部分にはA4ファイルが入るポケットが付いている。実際の現場で使用されているだけあって、文具収納に力を入れつつも、ゆとりある着心地を実現している。
もう少しスーツに見えるものがいい人のために、「Bizテーラードジャケット」と「Bizフルレングスパンツ」が用意されている。こちらは細身のデザインになっており、ジャケットにはフェイクチーク、パンツにもセンタープレスが付いているため、よりスーツに見える仕立てになっている。 こうした特徴だけでは、通常のスーツとあまり変わりがないように思えるだろう。だが、水道会社が制作したスーツだからこそ、一般的なアパレルが制作するものとは一線を画すこだわりが隠されている。
「水道会社ならではのこだわりは、撥水性と耐久性です。現場での実証実験を2年行い、毎日水洗いしても問題なく使え、速乾性も抜群で約3時間で乾き、しわになりにくくアイロン不要の高機能スーツになってます」
この秘訣は独自素材「ultimex(アルティメックス)」にある。既存の生地では、思うような仕上がりにならなかった。そこで既存のスーツとの差別化をはかるために、小さな生地工場と協力して速乾・撥水・ストレッチ・イージーケア・丸洗いできる生地を制作するという、徹底したこだわりが伺える。