制作工程のすべてをひとりで担わなければならない。そうした過酷な現実に直面した前田さんは、一心不乱に白磁と向き合った。誰かに頼ることもせず、わからないことはわからないなりに、試行錯誤しながら取り組むしかなかった。時間はかかるが、失敗から学ぶことで、自分の中の悩みをひとつずつ解決してきた。
だがある日、これまでの努力が水の泡になるような、大きな挫折を味わったという。
「自分なりに失敗を重ねながら技術を身につけてきたと思います。そういった日々のなかで一番堪えたのは、独り立ちして10年ほど経った頃のことですかね。
僕が使っている窯は、3ヶ月分の制作物が一度に入る大きさなんですよ。焼成をしている最中は内部を見ることができないものですから、いつも祈るような気持ちで窯を焚きます。
焼成が終わって窯出ししたときに、自分でも想像できないような美しい白磁が出てきてほしいと願います。火を止めてから3日ほどかけて冷まし、窯を開けるときは待ちきれずに朝一で取り出します。
するとね、ほんとに今でも思い出したくもないのですが、その3ヶ月分の作品すべてにヒビが入っていたんですよ。あのときは本当に堪えましたね」
これまでの努力が一瞬にして水の泡になった瞬間だった。最後の最後で作品がボツになってしまう辛さは、想像を絶するものだろう。前田さんも、どうしたらヒビが入らなくなるのかということを考える以前に、そのときはもはや制作に取り組む気力すらも失ったと心中を吐露してくれた。