かつて中川さん自身が高橋介州先生の下で修業をしたように、いまでは中川さんの教えを受け継ぐお弟子さんも出てきた。伝統工芸に携わる人が増えたいま、こうした状況は想像すらしなかったという。
「弟子というと、大学で教えていたとき の学生さんや、川本敦久先生が運営している金沢卯辰山工芸工房で教えた人たちがいますね。それに、いまも金沢職人大学校で教えていますから。こういうところから職人になっていく人が出てきて、大変うれしいですよ」
感慨深く語る中川さんの口調は、自身が職人の道に入ったときに孤独な思いをしたからなのだろう。
「私が工芸を始めたときは、金沢には2人しか象嵌職人がいませんでした。このままでは、金沢から象嵌がなくなってしまうのではないかと不安になったほどです。でも、私が工芸の道を選んだことを先生たちは喜んでくれてね。
ですから、工芸に携わる人が増えてきたいまの状況は、昔じゃ考えられなかったですよ」