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林央子:ファッションを届けること、エンパワーメントの契機

テクノロジーの進化や地球環境の変化によって目まぐるしく変化する、私たちの衣服/身体環境。そんな今日におけるファッションの「作ること・纏うこと・届けること」とは、どういった状況にあるのでしょうか?Fashion Tech Newsリニューアル記念特集として、衣服や身体をとりまく技術的/社会的状況の変容について、また、そこから描きだされる未来像について、5名の方々へのインタビューから考えていきたいと思います。
PROFILE|プロフィール
林央子

ライター、編集者。著書「拡張するファッション」(2011年 スペースシャワーパブリッシング)は2014年、同名のファッション展になり、2020年には「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」(東京都写真美術館)を監修。2020年秋からロンドンのセントラル・セント・マーティンズ大学院で展覧会研究を学ぶ。10年間かけて取材を重ねたアーティストやファッションデザイナーへのインタビュー集『つくる理由』が今年刊行予定。

今日のファッション文化、および衣服や身体を取り巻く環境

「親密さ」から伝える


ファッションを伝える立場として、やっぱり私は「親密(intimacy)」な空間から伝えたいということが第一にあります。そこに人がいてくれる、というのが大事で、私の場合その対象は作り手なんですよね。この人がいいと思うことからしか書いたり言ったりしたくはない、という思いが私にはあるんです。例えば、90年代にスーザン・チャンチオロが捨てられたTシャツを拾ってきて縫い直し、シェイプを変えて脱構築したようなTシャツを作り出していてそれをいいと思ったのも、その背後にはスーザンという人がいたから。もっと知りたいと思う、それはその人がいたからだと思うんですよね。匿名性のあるものよりも、親密なところから生まれる、作り手が見えるようなことを書き手として書きたいと思っています。
若手の方達にもすごく興味を感じています。私がよく取材しているのはPUGMENTです。私は親密な距離感から観察したり、体験したことからしか伝えたくないっていうのが、すごく頑固にあるんです。PUGMENTは今生きている情報環境の中で服を考えていて、服が様々な分野に接続できることを信じているんだけど、一方で、どうしたらいいかよくわからない、ともがいている感じを受けます。その葛藤と向き合うために長時間の取材を何度も重ねます。その、彼らがなかなか結論を出せないというところこそ、現代の複雑さを映している、と思えます。通常、メディアの人は効率重視で取材すると思いますが、私は私のやり方で、納得いくやり方で得るリアルな感覚を伝えていきたい。今年出版予定の本『つくる理由』も、PUGMENTをはじめ、10年間の歳月の中でつみ重ねた取材の記録です。

思想のデザイン

ファッションデザイナーがもう服をデザインしなくてもいいのかなっていう風にも思ってますね。物質性はファッションにとって重要なものですが、PUGMENTのようにファッションを情報環境のひとつとして捉える考え方は、かなり新しいと思うんです。情報環境としてファッションを捉えた場合、あえてデザイナーはモノとしての服を作らなくてもいいのかな、っていう気がしています。
ファッションは、言葉によらないコミュニケーションによって、同時代を生きる人たちにとってプラスになる方向性を与えてくれている気がします。今までは物質としての服を作って売って、ビジネスとして成立しなくてはファッションデザイナーと言わないと考えられていたと思います。ファッションを語る上でも、物を作って売るというビジネスの側面から離れ難かった。しかしPUGMENTとの対話から私は、概念として服を語ることがいかに豊かな体験をもたらすかを、学んだと思います。

使う人があってこそのメディア

メディアもInstagramのようなSNSも、使う人があってこそだと思うんです。SNSは作り手の日々の考えを常にフリーで共有できるという新しさがありますよね。本来ファッション業界はそれをやらない業界で、神様みたいな地位にデザイナーが君臨して、デザイナーが言葉を出す時はすごく注意深くメディアを統制して、発信する内容をコントロールする業界だったと思います。しかし「途中でやめる」の山下陽光さんは、スマホやインターネットという道具をどれだけ能動的に使いこなせるかということに常に意識的で、その可能性を広げるために、毎日メルマガを発信するなど様々な活動をやってきた人だと思っています。SNS時代ならではの、新しい顧客とのコミュニケーションのあり方を山下さんはデザインしている、と言えるのではないでしょうか。
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#Virtual Fashion Show
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