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【海老澤美幸×中嶋峻太】デザイナーが「ファッションロー」を活用することで得られるメリットとは

三村小松法律事務所の弁護士である海老澤美幸氏とお届けする特集企画「ファッションロー」。ファッションローとは、ファッション産業や業界に関連する法律問題を扱う法分野のことで、今年3月には日本初の「ファッションローガイドブック」が公開されました。
ファッションローガイドブックの策定にあたり、経済産業省は「ファッション未来研究会 ~ファッションローWG(ワーキング・グループ)~」を発足。海老澤氏はその副座長を務めました。
そこで今回は、海老澤氏と、ALMOSTBLACK(オールモストブラック)・中嶋峻太氏との対談企画をお届けします。
ALMOSTBLACKは、中嶋氏と川瀬正輝氏が2015年に立ち上げたメンズファッションブランド。「POST JAPONISM」というコンセプトのもと、国内外で評価が高まり、さまざまなアート作品などとのコラボレーションでも注目を集めています。
そこで今回、ファッションデザイナーとして最前線で活躍している中嶋氏の実体験とともに、ファッションローの役割や意義、その課題などについて考えていきます。
PROFILE|プロフィール
海老澤 美幸(えびさわ みゆき)
海老澤 美幸(えびさわ みゆき)

弁護士(第二東京弁護士会)/ファッションエディター
三村小松法律事務所

ファッションにかかわる法律問題を扱う「ファッションロー」に力を入れており、ファッション関係者の法律相談窓口「fashionlaw.tokyo」、ファッションローに特化したメディア「mag by fashionlaw.tokyo」主宰。文化服装学院非常勤講師、Fashion Law Institute Japan研究員。経済産業省「これからのファッションを考える研究会~ファッション未来研究会~」委員、同「ファッションローWG」副座長。2022年より株式会社高島屋社外取締役。ファッションローに関する執筆、インタビュー、講演等多数。

PROFILE|プロフィール
中嶋 峻太(なかじま しゅんた)
中嶋 峻太(なかじま しゅんた)

ALMOSTBLACK デザイナー

エスモード・パリを卒業後、デザイナーのラフ・シモンズのアトリエでデザインアシスタントを2年間務める。その後、国内外のデザイナーズブランドでのキャリアを経て、2015年に川瀬正輝氏とともにメンズファッションブランド「ALMOSTBLACK」をスタート。「POST JAPONISM」をコンセプトに、アーティストとのコラボレーション作品などが注目を集める。近年はe-sportsのアパレルブランドのディレクターや、三村小松法律事務所の小松隼也氏とブランディング会社を立ち上げるなど、活躍の場を広げている。

ファッションと法律における一番の壁

海老澤中嶋さんのブランドであるALMOSTBLACKは、私が所属している三村小松法律事務所と顧問契約を結んでいます。
中嶋さんと、弊所の代表を務める小松弁護士とは、一般的なファッションブランドと顧問弁護士の関係を超えて、現在一緒に会社を立ち上げるなど、業界的に見ても新しい取り組みをしています。
中嶋さんとは、ALMOSTBLACKが中国に進出する際の商標登録について担当させていただきました。
今日は、ぜひこちらのお話もできればと思っています。
まず、中嶋さんには、弁護士と関わるようになったきっかけや、そもそもファッションデザイナーとして最初から法律を意識されていたのか、といった点からお話をお伺いできればと思っています。
中嶋法律に関しては、まったく意識していませんでしたね。
少なくとも僕は専門学校時代に契約のことなんて学ばなかったので、知識がないし、それを得る場所もないというところで止まっていました。今でもそういう若手デザイナーは多いのではないでしょうか。
これまでALMOSTBLACKはさまざまなコラボレーションをしていますが、ブランド立ち上げ当初は契約書の作り方がまったくわからず、僕一人の気合だけで解決していました。
たまたま契約書がフォーマットに則ったような形式が多かったこともあり、いずれ専門家の力が必要だと思いながらも後回しにしていたんです。
そうしたなか、2021年の秋冬コレクションで白髪一雄さんと白髪富士子さんの作品とのコラボレーションを行った際も、自分で白髪さんの財団やご家族にご連絡していたのですが、いざ契約を結ぶとなった段階で、何をどうすればいいのかまったくわからない事態となりました。
白髪さんサイドが初めてファッションとコラボレーションをするということで、契約書を完全にゼロから作る必要があったのです。
ALMOSTBLACK 2022ss <br>(白髪氏とのコラボレーション。なお本記事トップ画像は2021awのコラボレーション)
ALMOSTBLACK 2022ss
(白髪氏とのコラボレーション。なお本記事トップ画像は2021awのコラボレーション)
中嶋ちょうどそんなとき、川瀬(正輝)の師匠にあたる坂田真彦さんから小松さんをご紹介いただきました。
坂田さんに「中嶋君たちのブランドが海外にも出て行くときに、絶対法律が必要になるから」とアドバイスいただいたんです。そこから、小松さんに契約書をはじめ法律的な問題を相談するようになり、白髪さんとのコラボも無事実現しました。
こうした経験から、僕にはラッキーな出会いがありましたけれど、ファッションと法律の一番の壁としては、やはり「誰に相談したらいいのかわからない」という点があると思います。
特に若手だと、弁護士の知り合いなんていないですし、弁護士事務所に連絡を取ること自体も、ハードルが高いと感じる人が多いのではないでしょうか。
海老澤そうですよね。普通に生活している中では、弁護士に相談したことが一度もないという人も多いと思います。
さらに、自分の仕事と共通言語がある弁護士を探すとなると、なかなか難しいかも知れないですね。
それまで中嶋さんだけで対応していたとのことですが、小松弁護士が顧問弁護士になったことで仕事の進め方やメンタルは変わりましたか?
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