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【海老澤美幸×山本真祐子】ファッショデザインにおける「パクリ」とは何か? これまでの裁判例から考える

三村小松法律事務所の弁護士である海老澤美幸氏とお届けする特集企画「ファッションロー」。ファッションローとは、ファッション産業や業界に関連する法律問題を扱う法分野のことで、今年3月には日本初の「ファッションローガイドブック」が公開されました。
ファッションローガイドブックの策定にあたり、経済産業省は「ファッション未来研究会 ~ファッションローWG(ワーキング・グループ)~」を発足。海老澤氏はその副座長を務めました。
そこで今回は、海老澤氏と、同研究会に委員として参加した弁護士で、群馬大学情報学部講師の山本真祐子氏との対談企画をお届けします。
ファッションデザインの保護を研究している山本氏とともに、身近で注目度が非常に高い話題であるファッションデザインの「模倣」を取り上げながら、ファッションローの役割や意義、それを取り巻く課題などについて考えていきます。
PROFILE|プロフィール
海老澤 美幸(えびさわ みゆき)
海老澤 美幸(えびさわ みゆき)

弁護士(第二東京弁護士会)/ファッションエディター
三村小松法律事務所

ファッションにかかわる法律問題を扱う「ファッションロー」に力を入れており、ファッション関係者の法律相談窓口「fashionlaw.tokyo」、ファッションローに特化したメディア「mag by fashionlaw.tokyo」主宰。文化服装学院非常勤講師、Fashion Law Institute Japan研究員。経済産業省「これからのファッションを考える研究会~ファッション未来研究会~」委員、同「ファッションローWG」副座長。2022年より株式会社高島屋社外取締役。ファッションローに関する執筆、インタビュー、講演等多数。

PROFILE|プロフィール
山本 真祐子(やまもと まゆこ)
山本 真祐子(やまもと まゆこ)

群馬大学情報学部 講師
内田・鮫島法律事務所 カウンセル弁護士
(文化ファッション大学院大学非常勤講師)

2009年3月中央大学総合政策学部卒業。2012年3月北海道大学大学院法学研究科法律実務専攻修了。2013年12月弁護士登録。2014年1月内田・鮫島法律事務所入所(現在に至る)。2018年4月より、文化ファッション大学院大学非常勤講師(現在に至る)。北海道大学大学院法学研究科修士課程(中退)・博士後期課程(中退)の後、2019年4月より東京大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程(現在に至る)。2022年4月より現職。

ファッションデザインのパクリに関わる「不正競争防止法2条1項3号」

海老澤今年の3月に、日本初の「ファッションローガイドブック」が公開され、ファッションローに対する関心も高まってきていると感じています。
そこで、この場を借りてファッションと法律の関係性、そして最終的には法律のあるべき姿まで議論できればと考えています。
ファッションローは非常に幅広いトピックをカバーしているのですが、今回の対談では、一般の皆さんにとっても身近なトピックである「ファッションデザインの模倣」、いわゆるファッションデザインの「パクリ」を取り上げたいと思います。
海老澤さて、ファッションデザインの「パクリ」と聞くと、おそらくは「著作権法の問題じゃないの?」と思う方も多いかもしれません。
実際、たとえばフランスでは、著作権法上、ファッションデザインが著作物の一つに挙げられており、創作的なファッションデザインは著作権法で保護されることになります。
他方、日本では、ファッションデザインを含む実用品のデザインが著作権法により保護されるのは、ざっくり言うと「実用的な機能から分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている」場合に限るとされており、保護のハードルは高いと言わざるを得ません。
その理由の1つとしては、意匠法との住みわけが挙げられます。意匠法はプロダクトデザインを保護対象としていますので、実用品のデザインの保護は意匠法に任せようという発想ですね。
ではファッションデザインも意匠法で保護すればいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、実はファッションデザインと意匠法は相性がそこまでよいとはいえません。
これは、意匠出願から登録まで6か月から1年近くかかるため、登録される頃にはその商品の販売が終わってしまうケースもあることや、基本的には公開前に出願しなければならないこと、アイテムごとに出願しなければならずコストがかかることなどが理由として挙げられます。
著作権法はハードルが高く、意匠登録はあまり活用されていない中、じゃあファッションデザインはどの法律で保護されているのかというと、ここで登場するのが「不正競争防止法2条1項3号」(以下、3号)です。私はこの条文のことをよく「最後の砦」と呼ぶこともあります。
有名ではないファッションデザインのケースはほぼこの3号の問題になるのですが、この3号がなかなかに難解な条文です。
前置きが非常に長くなりましたが、山本先生はこの3号を専門として研究されていますよね。改めてファッションデザインの模倣と3号との関係についてご説明いただけますでしょうか。

「模倣」とは何か、どのように判断されるのか

山本模倣と一口に言っても、本当に難しいですよね。
3号の制度が作られた趣旨から言えることは、「ある人が、売れるかどうかわからないなかで商品化リスクを取って開発した商品を、そっくり真似して、リスクを負担せずに利益得るような、リスクを取った人のやる気を過度に削ぐ模倣をしてはならない」ということです。
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