ファッションローガイドブックの策定に当たり、経済産業省は「ファッション未来研究会 ~ファッションローWG(ワーキング・グループ)~」を発足。海老澤氏はその副座長を務めました。
ALMOSTBLACKは、中嶋氏と川瀬正輝氏が2015年に立ち上げたメンズファッションブランド。「POST JAPONISM」というコンセプトのもと、国内外で評価を高めており、さまざまなアート作品などとのコラボレーションでも注目を集めています。
前回に引き続き、ファッションデザイナーとして最前線で活躍している中嶋氏の実体験とともに、ファッション業界と法律にまつわる課題、デザイナー・ブランドと法律家との関わり方などについて考えていきます。
PROFILE|プロフィール
海老澤 美幸(えびさわ みゆき)
弁護士(第二東京弁護士会)/ファッションエディター三村小松法律事務所 ファッションにかかわる法律問題を扱う「ファッションロー」に力を入れており、ファッション関係者の法律相談窓口「fashionlaw.tokyo」、ファッションローに特化したメディア「mag by fashionlaw.tokyo」主宰。文化服装学院非常勤講師、Fashion Law Institute Japan研究員。経済産業省「これからのファッションを考える研究会~ファッション未来研究会~」委員、同「ファッションローWG」副座長。2022年より株式会社高島屋社外取締役。ファッションローに関する執筆、インタビュー、講演等多数。
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中嶋 峻太(なかじま しゅんた)
ALMOSTBLACK デザイナー エスモード・パリを卒業後、デザイナーのラフ・シモンズのアトリエでデザインアシスタントを2年間務める。その後、国内外のデザイナーズブランドでのキャリアを経て、2015年に川瀬正輝氏とともにメンズファッションブランド「ALMOSTBLACK」をスタート。「POST JAPONISM」をコンセプトに、アーティストとのコラボレーション作品などが注目を集める。近年はe-sportsのアパレルブランドのディレクターや、三村小松法律事務所の小松隼也氏とブランディング会社を立ち上げるなど、活躍の場を広げている。
海老澤 今回の特集の第1回 と第2回 では、弁護士の山本真祐子先生と「模倣」 を中心に議論をしたのですが、ALMOSTBLACKでは模倣に関する被害を受けた経験はありますか。 中嶋 ありますね。ある大手のストリート系ブランドを運営する企業に「デザインをそのまま使われた」という経験があります。さらに、そのアイテムは有名人が着用したことで一気に売れてしまいました。
なお、その企業はいくつも模倣をしており、他ブランドから訴えられたようです。結局、模倣するかどうかはブランドの大小ではなく、企業のコンプライアンスの問題なのだと感じました。
ちなみに、ALMOSTBLACKとしてどう対応したかというと、その時期は三村小松法律事務所と顧問契約をする前だったことや、訴訟の労力と時間を考えて傍観したというのが正直なところです。
小さいブランドにとって、仕事の忙しさや訴訟費用などを考えると、そのままにしてしまうケースが多いかもしれません。
海老澤 前回の山本先生との対談では制度的な問題点についてお話ししたのですが、ファッション業界にもっと「模倣するのはダサい」といった意識が広まるといいなと思います。
D-VEC × ALMOSTBLACK 2023aw 中嶋 悪質なケースもありますが、周囲を見ていると気づかずに模倣しているケースもあるなと感じます。企業もデザイナーも何が法律の範囲内なのかを踏まえてデザインしていくことが重要なんじゃないかなと思います。
そのためには地道ですが、教育で伝えていくことが大切ではないでしょうか。
海老澤 その通りですね。私は学生さんにファッションローを教えることも多いのですが、最近はサステナブルへの関心が高いことから、学内で「アップサイクルプロジェクト」に取り組んでいるケースをよく見かけます。
そのなかで、有名ブランドの服を、ブランドのロゴやマークを付けたまま新たな商品にアップサイクルして販売しているというケースも少なくありません。
実は、ロゴやマーク、ブランドタグなどを付けたままの古着などを加工して販売すると、商標権侵害などになる可能性が高いんですよ。
そのため、「これはダメですよ」と指摘すると、学生さんはもちろん先生方にも「え、これってダメなんですか」と驚かれることがあります。
中嶋 古着屋でもサステナブルやリメイクと言いながら、いまだに法律的にダメなものが売られていることはあります。
業界的には、皆さん先輩などに聞いて済ませて、弁護士に相談をしないで商品化することもあり、それで訴えられているケースもあるようです。
仮に悪意がなくても、それで訴訟になってしまったら、小さいブランドはあっという間になくなる危険がありますよね。
海老澤 そうなんですよね。模倣にしろアップサイクルにしろ、ブランドやデザイナーの方には、法律の細かい知識を知ってもらう必要はなくて、「これってま ずいんじゃない?」「法律に違反しているかも?」という嗅覚みたいなものを持っていただけるといいなと思っています。
そのために、法律の大枠を知ってもらうことが大事なのではないかと考えています。こうした嗅覚は、炎上を回避することにも役立ちますね。