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【対談】門田慎太郎・遠藤謙「身体の一部となるプロダクトをめぐる、デザインとエンジニアリングの思想」

ロボットや義足の研究者であり、株式会社Xiborg・遠藤謙氏とお送りする特集企画「身体/衣服と機能」。今回は、株式会社quantum執行役員でチーフデザイナーの門田慎太郎氏をお迎えし、対談を行いました。
日常を旅するクルマイス「Wheeliy」のデザインを手掛けた門田氏と、義足を手掛ける遠藤氏。共にこれまで福祉の領域に置かれていたプロダクトに新たな視点を提示する両氏が交わした、身体の一部となるプロダクトをめぐる思想、またデザインやエンジニアリングへの考え方や向き合い方まで、多岐にわたる対話をお届けします。
PROFILE|プロフィール
門田 慎太郎

国内デザインファーム及び外資系PCメーカーにて、一点モノの家具から世界で数万台を売り上げるラップトップPCまで幅広い分野の製品デザインを担当したのち、quantumに参画。quantumのデザイン部門を統括し、プロダクト、グラフィック、UI/UXデザインなどの境域から幅広い分野の新規事業開発を牽引する。デザインリサーチ、コンセプト開発、実証実験、量産設計支援まで一連の製品開発を一気通貫に行うことを強みとしている。手掛けたプロダクトは、iF Design、RedDot design、D&AD、Cannes Lions、グッドデザイン賞など、数多くのアワードを受賞しているほか、ドイツ・ミュンヘンのPinakothek der Moderneのパーマネントコレクションにも選定されるなど、国内外から高い評価を集めている。
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PROFILE|プロフィール
遠藤謙

株式会社Xiborg代表取締役

慶應義塾大学修士課程修了後、渡米。マサチューセッツ工科大学メディアラボバイオメカトロニクスグループにて、人間の身体能力の解析や下腿義足の開発に従事。2012年博士取得。一方、マサチューセッツ工科大学D-labにて講師を勤め、途上国向けの義肢装具に関する講義を担当。現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所アソシエイトリサーチャー。ロボット技術を用いた身体能力の拡張に関する研究に携わる。2012年、MITが出版する科学雑誌Technology Reviewが選ぶ35才以下のイノベータ35人(TR35)に選出された。2014年ダボス会議ヤンググローバルリーダー。

日常を旅するクルマイス「Wheeliy」をめぐって

社会のサポートを促すデザイン

門田「Wheeliy」の開発背景からお話ししますと、もともとバスケットボールやバレーボールに関連する製品で有名なmoltenさんに医療福祉機器を製造販売する部署があり、新規開発として車椅子を作ってみたいとデザインの依頼を受けました。プロジェクト開始当初は、どういった車椅子をつくるべきなのか明確な目標はなく、また、開発メンバーにも車椅子ユーザーがいなかったんです。なので、実際に色々な車椅子で生活されている方や有識者の方に会うことを積み重ねて、実際の生活のなかで、どういった問題や困難があるのかを洗い出すことから始めました。
そこで見えてきたことが、今の社会のなかで車椅子で移動しようとすると、自分の力だけでは乗り越えられない障壁があるということです。車椅子で移動しようと考るとき、一般的には自分でコントロールできる範囲のところを考え、安定した走行性や軽量化に着目すると思います。ただ、実際に社会に出たときには、自力での移動にはどうしても限界があり、他人の力を借りて移動しないとならない場面が出てきてしまいます。最近、車椅子の方がタクシーで乗車拒否されるというニュースがありましたが、車椅子は扱い方がわからず、壊してしまったら怖いといった理由でリスクを感じさせてしまうようなんですね。タクシーだけではなく、地下鉄やバスでも係の方がどうしてもサポートを躊躇してしまう。そういった障壁を無くすため、車椅子に乗る人のことだけを考えるのではなくて、社会のなかで車椅子ユーザーをサポートする人のためにも、デザインに何かできるのではないかということを考えました。
実際に「Wheeliy」を見ていただくと、黄色いポイントが所々に入っています。これはブランドカラーでもあるんですが、機能的な理由もあり用いられています。たとえばハンドルの黄色い位置を持ち上げることでワンプッシュで畳めたり、フレームの黄色い位置を持つとバランスよく持ち上げることができたりといったことを考慮して、色を入れています。

福祉的なデザインやプロモーションを乗り越えるために

門田もうひとつ大きな特徴が、ブランドコンセプトともなっている"日常を旅するクルマイス”ということで、外に出て行きたくなるような高揚感がある、乗ってみたいなと思うデザインにしたいと考えていました。
よく開発メンバーで話していたのが、メガネは元々は漢字で矯正器具だったのが、今ではカタカナのメガネになって、伊達メガネをつける方がいるみたいにファッションアイテムになっている。そういった感じで、いわゆる福祉機器然としたデザインじゃなく生活の中に入っても馴染んで悪目立ちしない、健常者の方が見てもかっこいいロードバイクに乗っているような印象を与える、そういった世界観をつくりたいというのも大きなテーマのひとつでした。
遠藤車椅子は色々な選択肢がありすぎて。どれを選んだらいいかわからないけども、病院の人からこれを使いなさいといった形であてがわれることが多いものですよね。しかし、これからは自分自身で選ぶということも増えていくような流れにあると思います。
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#Wearable Device
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