越前和紙の素材学:楮、三椏、雁皮が織りなす個性と産地が挑む原料の未来
会員限定記事2025.11.18
越前和紙の素材学:楮、三椏、雁皮が織りなす個性と産地が挑む原料の未来
※音声読み上げ機能はAI生成のため、
読み間違いが発生する場合があります。
リンクをコピーしました
越前和紙の品質と多様性は、その根幹をなす植物原料の特性に深く依存しています。和紙の質感を決定づける主要な原料である楮、三椏、雁皮は、それぞれが異なる性質を持ち、用途に応じて使い分けられます。この記事では、これらの素材が越前和紙に与える影響を比較します。さらに、原料の調達が直面する構造的な課題と、職人が素材と向き合うことの重要性についても考察します。

和紙の個性を決定づける3つの主要原料

越前和紙で主に使われる原料は、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)という3種類の植物の靭皮(じんぴ)繊維です。これらの繊維はそれぞれに異なる特徴を持ち、完成する紙の性質を大きく左右します。職人は、作りたい和紙の用途や目指す品質に応じて、これらの原料を単独で用いるか、あるいは複数を配合して使用します。

楮はクワ科の植物で、その繊維は太く長いため、非常に強靭な紙を作ることができます。この強度と耐久性の高さから、障子紙や版画用紙、書道用紙といった、物理的な強さが求められる用途に広く用いられます。栽培も比較的容易で、毎年収穫が可能なことから、和紙の原料として安定的に使用されてきました。

三椏はジンチョウゲ科の植物で、日本銀行券、いわゆるお札の主原料としても知られています。その繊維は楮に比べて短く柔らかく、光沢があるのが特徴です。三椏から作られる紙は表面が滑らかで印刷適性が高く、きめ細かく優美な風合いを持つため、高級な印刷用紙や襖紙などに用いられます。ただし、害虫に弱く栽培に手間がかかるという側面も持ち合わせています。

雁皮も三椏と同じくジンチョウゲ科の植物ですが、その繊維は極めて細かく短いという特徴があります。雁皮で漉かれた紙は薄くても強靭で、虫害に強いことから長期保存に適しています。また、表面はきめ細かく滑らかで、独特の光沢を持つため、古くから高級和紙の原料として扱われてきました。特に「鳥の子紙(とりのこがみ)」と呼ばれる最高級の和紙は、この雁皮を主原料とします。しかし、雁皮は人工栽培が極めて難しく、山に自生しているものを採取するほかありません。この希少性が、雁皮を原料とする和紙の価値をさらに高めています。

左から楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)
左から楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)

この記事は会員限定です。
登録すると続きをお読みいただけます。
会員登録でできること
  • 会員限定記事の閲覧、
    音声読み上げ機能が利用可能
  • お気に入り保存、
    閲覧履歴表示が無制限
  • 会員限定のイベント参加
  • メールマガジン配信で
    最新情報をGET