越前和紙の卓越した品質を物理的に支えているのは、この土地が持つ自然環境そのものです。その中でももっとも重要な要素が、清冽な水の存在です。和紙の製造工程では、原料の洗浄から繊維の叩解(こうかい)、そして紙を漉く作業に至るまで、大量の清らかで純度の高い水が不可欠となります。産地の中心を流れる岡太川の伏流水は、不純物が少なく、紙の白さや 仕上がりの美しさに直接影響を与える理想的な水源でした。
次に、北陸地方特有の冬の厳しい寒さも、高品質な和紙作りには欠かせない要素です。和紙の繊維を水中で均一に分散させるためには、「ネリ」と呼ばれるトロロアオイの根から抽出した粘性のある液体が用いられます。このネリの粘度は気温が低いほど安定して効果を持続させる性質があり、越前の冬の寒気は、職人が薄く均質で高品質な紙を漉くための最適な環境を提供しました。
さらに、この地域の地理的条件も、紙漉きが地域産業として発展する背景となりました。産地の中心である五箇地区は、山々に囲まれた谷間に位置し、平坦な土地が少ないため大規模な農業には不向きな土地柄でした。このような地理的制約が、人々をより専門的な生業である紙漉きへと向かわせました。これが、地域に根差した特殊産業として技術を磨き、発展させる経済的な土壌となったのです。
