「衣服とは何か?」という根源的な問いに、素材から再定義を試みる技術が登場している。イギリス・ロンドンを拠点に活動するファッションデザイナーであり、素材科学者でもあるマネル・トーレス博士が率いる「
Fabrican(ファブリカン)」は、スプレーで吹きかけるだけで即座に布を生成するという独自の技術を開発した。
この“スプレー布地”は、ファッションだけでなく医療、製造、化粧品、ウェルビーイングといった分野にまで応用されつつある。Fabricanが示すのは、衣服が「縫うもの」から「生成するもの」へと変わる未来である。
PROFILE|プロフィール
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マネル・トーレス(Manel Torres)
スペイン出身のファッションデザイナー兼素材科学者。イギリス・ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートでファッションを学び、インペリアル・カレッジにて素材科学を研究。2003年にFabrican Ltd.を設立し、スプレー式布地の開発と実用化に取り組む。現在も同社マネージングディレクターとして事業を率いると同時に、インペリアル・カレッジの客員研究員として研究開発を継続している。
Photo by Andrew Rankin
T-shirt collection dress Photo by Tatiana Dzudzovaスプレーひとつで布が生まれる──その技術は、まさに科学とファッションの融合と言える。Fabricanは繊維、結合剤溶剤を含んだ液体で、スプレーした瞬間に空気と接触することで溶剤が急速に蒸発し、繊維が互いに絡み合って結合し布が形成される仕組みだ。
トーレス博士がこのアイディアを着想したのは、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートでファッションを学んでいた1996年代のことだった。
「伝統的なファッションにおける職人技は高く評価していますが、そのプロセスには時間と労力がかかりすぎます。そこで、『無駄なく身体にフィットする服を一瞬で作れたらどうなるだろう?』と考えたのです」と博士は語る。