ビーズ一粒に宿る光を、物語のように布の上で紡ぎ出す──。
世界的なオートクチュール刺繍デザイナーであり、ビーズ刺繍作家の
田川啓二さんは、長年培った美意識と緻密な技術を融合させ、唯一無二の世界を築いてきた。
今回のインタビューでは、その創作の原点から技法、素材へのこだわりまでをじっくりと語ってもらった。
PROFILE|プロフィール

田川 啓二(たがわ けいじ)
ビーズ刺繍デザイナー/文化学園大学特任教授
東京都生まれ。明治大学法学部卒業。
1989年 株式会社チリアを設立。同時にインドにアトリエを構え、 オートクチュールビーズ刺繍を手がけ始める。
1996年 「チリアエンブロイダリースタジオ」(刺繍教室)開講。
2016年4月 文化学園大学特任教授に就任。
現在、全国各地での展覧会、刺繍教室、イブニングドレスだけの贅沢なファッションショー、さまざまな企業とのコラボレーションなどのほか、数々のテレビ、ラジオ、雑誌への出演と幅広く活躍中。
田川さんとビーズ刺繍との出会い
田川さんのオートクチュールビーズ刺繍は、見る人を惹きつけてやまない。光や動きで表情を変える繊細な輝きは、どのようにして生まれたのだろうか。「大学卒業後、アパレル会社を経て専門学校で学び直していた時期がありました。その頃、ファッションショーの裏方を手伝う機会があり、そこで初めてオートクチュールの刺繍に出会ったんです。
それまで見たことのない輝きでした。モデルがランウェイを歩くたび、服が自ら光を放つように煌めき、刻々と表情を変えていく。LEDもない時代、『どうしてこんな風に見えるのだろう』と心から驚きました。
この経験が、ビーズ刺繍との最初の出会いであり、大きな衝撃でした。それ以来、『この刺繍はどうやって作られているのだろう』と、心のどこかで考え続けていましたね」
その後、転職したフランスのアパレルブランドで、田川さんに転機が訪れる。