2022.09.09

見えない環境要素(Ambient Factors)を布に織り込むことに取り組んだ プロジェクト「Ambient Weaving」の真髄

オーストリアのリンツで開催されるアルエレクトロニカは、芸術、先端技術、文化の祭典で、メディアアートのイベントとしては世界最大級の規模を誇る。アート領域における実践的な科学やテクノロジーのコラボレーションの推進を目的に実施している賞「STARTS(Innovation at the Nexus of Science, Technology, and the ARTS)Prize 2022」にて、株式会社ZOZO NEXTが東京大学筧康明研究室、株式会社 細尾とともに共同開発した「Ambient Weaving」がHonorary Mention(栄誉賞)を受賞し、9月7〜11日に開催されるアルスエレクトロニカ 2022に出展することになった。

ZOZO NEXTでこのプロジェクトを担当した中丸啓氏へのインタビューに続き、今回は東京大学筧康明研究室を率いる筧康明氏に話を聞いた。

アルスエレクトロニカでHonorary Mention(栄誉賞)を受賞した「Ambient Weaving」について、作品のコンセプト、見せ方、表現部分などで強く意識した点などを教えてください。

「Ambient Weaving」は、先端的な素材やその製造・制御技術と、伝統工芸の技や美を重ね合わせ、新しい布の可能性を探求するプロジェクトです。特にこのプロジェクトでは、熱や湿度、流れなど見えない環境要素(Ambient Factors)を布に織り込むことに取り組みました。いかに布が人と環境とのインタフェースとなり、また布が環境要素の一部として自然に作用するかという問いを、さまざまな観点からプロトタイプしたものです。

画像: 「Ambient Weaving」の中の1つの作品“Drifting Colors”
「Ambient Weaving」の中の1つの作品“Drifting Colors”
画像: “Drifting Colors”は布の中に色素の入った水が染み込んでいくことで色が変わるという作品
“Drifting Colors”は布の中に色素の入った水が染み込んでいくことで色が変わるという作品
受賞した感想をお聞かせ頂けますでしょうか。

とても光栄に感じています。STARTS Prizeは、芸術・科学のどちらか片方ではなく、両方のアプローチから高め合い、先進的なアウトプットを示したプロジェクトを顕彰する賞です。その点で、本プロジェクトが目指していた技術的先進性と美的完成度の両立を、審査員の皆さまに評価いただけたのは自信になります。

課題に対する乗り越え方のバリエーションが豊富な点がコラボレーションの醍醐味

(筧先生の視点で)今回のプロジェクトについて。コラボレーションならではの醍醐味とはどんなものだったでしょうか。

技術・技法・表現のそれぞれの専門家がいるコラボレーションで、課題に対する乗り越え方のバリエーションが多彩で、常にそんな方法があったかと驚き、楽しみながら取り組むことができています。また、長い期間コラボレーションを続けてきたおかげで、職人が研究のアイディアを思いついたり、技術者が織り方を習得したり糸を紡いだりと、互いの既存の専門を超えた交流ができるようになり、そんな成長や新たな専門性の芽生えを感じられることも醍醐味です。

出展に対する意気込みや出展に向けての想いがありましたらお聞かせください。

アルスエレクトロニカは、僕らにとっても毎年のようにその年の最も自信のある作品や研究を発表する重要な機会です。特にCOVID-19でこの数年は物理参加ができなかっただけに久しぶりのフェスティバル参加を楽しみにしています。このプロジェクトが世界中の先端的でクリエイティブな人々の目に触れた時に、どのようなフィードバックを得られて、化学反応に繋がるのかを楽しみにしています。

東京大学筧康明研究室での普段の研究についてお聞かせください。

筧研究室では、特に物理素材の特性に注目したメディアデザインやインタラクションに関する研究を展開しています。形が変わる、色が変わる、柔らかさが変わる素材を組み込んだフィジカルインタフェースやディスプレイなどを開発しています。また、アーティストやデザイナーもメンバーに多くおり、植物や生物などNon-Humanと言われる存在とのインタラクションや、その土地の環境要素と呼応するインスタレーションなど、作品展開も行っています。今回のアルスエレクトロニカでも、「Ambient Weaving」の他に、研究室として「Interverse of Things」というテーマで3作品の発表を予定しています。

画像: see-saw(研究室としての展示として発表予定の作品の1つ)
see-saw(研究室としての展示として発表予定の作品の1つ)
画像: ephemera(研究室としての展示として発表予定の作品の1つ)
ephemera(研究室としての展示として発表予定の作品の1つ)

プロダクトとしてどう社会に組み込めるかも検討したい

(筧先生の視点で)「Ambient Weaving」の今後の展望を教えてください。

今後の「Ambient Weaving」の展望として、一つは進行中のプロトタイプの完成度向上・探求があります。より繊細に環境情報に呼応する方法はないか、より西陣織の意匠に溶け込む織り方はないか、と表現面で追いたい要素は尽きません。また、プロダクトとして社会に組み込むために、どのような文脈や用途と結びつけることが可能かという点も是非検討したいと思っています。
そして、何より僕らが得意とするさらなる素材や現象を利用した機能提案や表現提案のプロトタイピングは、新たなメンバーも交えながら継続的に行っており、また近いうちに披露できる機会が設けられればと考えています。

パートナー企業である株式会社ZOZO NEXT、および株式会社 細尾に対する想いをお聞かせてください。

ZOZO NEXTには信頼する材料科学や化学の専門家が所属しています。そしてプロジェクトに対して常にビジネスや社会実装の視点を持ち込んでくれます。これほど実験的なプロジェクトに常に理解を示し、期待をかけてくださることに感謝しています。
細尾の皆さんは常に飽くなき美の探求を行う専門家集団です。彼らの伝統に足り得る完成度かどうかは僕らの指標の一つです。日本文化への貢献や歴史的位置付けなど、彼らとのコラボレーションから学べる視点は尽きません。

アルスエレクトロニカ2022の「STARTS Prize 2022」でのHonorary Mention(栄誉賞)は、一つの到達点ではあるものの、「Ambient  Weaving」プロジェクトにとっては通過点とも言える。今後、どのようにアップデートされ、プロジェクトを通してどんなものが生まれてくるのか。引き続き注目していきたい。

PROFILE|プロフィール
筧 康明(かけい やすあき)

インタラクティブメディア研究者、アーティスト。東京大学大学院情報学環教授。博士(学際情報学)。 物理素材特性を活かすインタラクティブメディアの研究を軸に、Ars Electronica等国内外で作品展示を展開する。科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞、第23回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞等を受賞。 https://xlab.iii.u-tokyo.ac.jp/

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