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「仕上がりは常に想像を超えてくる」世界の段ボールを集める島津冬樹に聞く、段ボールが財布に生まれ変わるまで
道端や店先に、何気なく捨てられた段ボール。島津冬樹さんは、目を輝かせてそれらを集める“段ボールピッカー”として活動し、多くの人が見向きもしなかった素材を、財布やカバンなどの作品に生まれ変わらせている。渋谷にある自身のアトリエや、国内外で行われるワークショップには、毎回多くの人が足を運んで大賑わいだ。
彼が思う段ボールの魅力はもちろん、段ボール財布が生まれるまでの詳細な工程や、こだわりを聞いた。
PROFILE
温かみのあるデザインに惹かれる
島津さんは多摩美術大学の在学中に、段ボールで作品を作り始めたそうですね。
はい。情報デザインを学んでいた大学2年生のとき、家にあった段ボールで財布を作ったのが最初でした。自分の財布がボロボロになってしまって、買うお金もなかったので、とりあえず間に合わせで作ろうと。他の財布を参考にしながら、段ボールを切って、のりと両面テープで接着して……。1ヶ月もてばいいだろうと思ったら、なんと1年も使えたんです。すごく驚きましたね。同じように財布を作って、学祭で1つ500円で販売してみたら、すぐに30個ほどが売れたんです。とても手応えを感じて、「自分の道は段ボールしかない」と思うようになりました。

「段ボールしかない」と思うほど、段ボールのどういった部分に魅せられたのでしょうか?
自分でも時々なぜだかわからなくなるんですが(笑)、大きな理由は、世界中どこへ行っても、いつも初めて見る段ボールがあるということです。16年間も活動してきたけれど、見たことがない段ボールにまだまだ出会えるし、飽きることがありません。それが一番の原動力ですね。日々新たな発見を求めて追究する、昆虫博士などに近いのかも。世の中に無地の段ボールしか存在しなかったら、ここまで続けていなかったと思います。デザインを専攻されていたからこそ、多種多様な趣がある段ボールに魅了されているんですね。
そうですね。もちろん素材としての良さもあるんですが、温かみがあって、どこかゆるい段ボールのデザインには、とても惹かれます。別に無地でも誰も困らないだろうに、感情がこもっているところが面白い。でも普段は、その面白さが全然注目されていないんですよね。自分だけが気付いている段ボールの魅力を、どう人に伝えられるか。そればかり考えています。


デザイン性・耐久性・使いやすさを大事にした段ボール財布
島津さんはご自身のアトリエや様々なイベント会場で、段ボール財布を作るワークショップを行っていますよね。段ボール財布が完成するまでの工程を、具体的に教えてください。
段ボールは3層で構成されているのですが、まずは水に濡らして、それを剥がします。そして、ひだを潰す。そうすることで、折り紙ができるくらいに薄く、柔らかくなるんです。
ワークショップやイベントの際は、財布の型をたくさん用意しています。最近はやはりキャッシュレスの浸透もあって、長財布よりは小さめのタイプを選ぶ方が多いですね。僕自身も普段はカードケースを使っています。やはり最初に柄を選ぶ瞬間が、皆さん一番イキイキしていて。それを見るのがうれしいですね。

財布の構造としては、どのような部分にこだわっていますか?
デザイン性、耐久性、使いやすさの3つを軸にしています。常に自分が日常生活の中で使って、トライアンドエラーを繰り返しながら、改善点に落とし込んできました。いかに強度を持たせるかは、16年掛けて培ってきた技術です。剥がした段ボールは必ず2層構造にしていて、剥き出しの部分がないデザインにすることで、強力にしています。
さらに去年からは、接着剤を使わずに作れる構造にしたんですよ。接着剤ってなかなかうまく扱えない方もいるので、誰でも早くきれいに作れるように、改良しました。折って組み立てて、最後にスナップボタンを付けて……20分くらいで完成します。
ちなみに、例えば財布を水たまりに落としたりしてしまっても、大丈夫なものなのでしょうか。
「もし濡れてしまった場合は、とにかくすぐに乾かしてください」と伝えています。実は僕も1度洗濯してしまったことがあるんですが、乾かしてからまた接着剤で接着したら、無事に蘇って。ダメージジーンズのような味が生まれて、それも逆によかったんです。段ボールって、想像以上に丈夫なんですよね。

島津さんは段ボールで作品を作る際、どの作業にやりがいを感じますか?
組み立てて平面から立体になったときに、「あ、こういうデザインになったんだ」「ここにこのイラストが来るとは」という驚きが、毎回あるんです。どんなに完成図を頭で想像していても、必ずそれを超えてくる。だから何度作っても飽きないし、常に楽しいですね。段ボールをひたすら切る作業も飽きることはないし、大変なことは特にないかな。1人でやっているので、会社のお金関係のことを考える時間だけが、唯一つらいです(笑)。
素材となる段ボールは、日々どのように集めているんでしょうか。
今までは東京の大田市場によく行っていたんです。日本最大級の卸売市場ですし、あそこがおそらく日本一段ボールが集まる場所なんですよね。でもシステムが変わって、段ボールを拾いづらくなってしまって。最近はNATIONAL AZABUという、海外食品のスーパーによく足を運んでいます。やはり、どんな段ボールでもいいというわけではなくて。ワークショップ参加者の方が喜んでくれる柄付きの段ボールを手に入れようとすると、意外とハードルが高く、いつも車で移動して、1日がかりで探しています。びしょ濡れでもう色褪せてしまっているような段ボールはさすがに拾わないですが、今までで虫がわいていた経験は、フィリピンで出会った1回だけですね。
段ボール財布が“文化”として残ってほしい
(アトリエにずらりと並んだ段ボールを眺めて)かなりの数が棚に収納されていますが、全部でどれくらいの段ボールがあるんでしょうか?
数えたことはないんですが、世界47ヶ国(2025年2月現在)から集めたものを国別に並べていて、500点以上はあると思います。ここにあるものは僕の宝物でありコレクションなので、素材としては使っていないですね。
アメリカの段ボールはバージンパルプといって、純度の高いパルプから作っているので硬かったり、日本は90%以上が再生した段ボールで作られているので、繊維がほぐれていて柔らかかったり……国ごとの違いも面白くて。必要なパーツごとに、適した段ボールを使い分けたりもします。
やはり段ボールは時代とともに朽ちてしまうので、いかに保存していくかがテーマ。ゆくゆくは段ボール博物館を作るのが夢です。常設ではなくポップアップでもいいのですが、僕が死ぬ前に、何らかの形で後世へ残していきたいです。
僕は5歳の息子がいるんですが、息子にこれを丸ごと託したらかわいそうだと思いつつ、「少しでもとっておいてくれたら嬉しいな」と考えたりもします(笑)。
サステナブルの観点でも島津さんの活動は注目されていますが、ご自身は服や物を選ぶときに、そうした視点を重視しますか?
はい。展示に向けてホームセンターで資材を調達する際、大量に買うのがすごく怖いんです。いかにスケールアップしていけるかは毎回考えますが、一方で必ず、「これはあれで代用できるんじゃないかな」と一度考える。物を買うときはすごくこだわりたいし、用途がたくさんあるものが好きですね。今後作ってみたい作品や、活動の目標はありますか。
最近はインテリア用品やホームアクセサリーのアイデアをいろいろと考えていて、花瓶を作ったり、3Dプリンターで作ったパーツを組み合わせた車を作ってみたり……。試作を続けているところです。

でも僕は、自分で作品を作って販売するというより、多くの方に体験してもらいたいという思いが強くて。「誰でも作れるようにするにはどうすればいいか」を常に考えています。そして、段ボール財布を知恵として残したい。例えばよく、おばあちゃんがチラシを折って、みかんの皮を捨てる入れ物をサッと作ってくれたりするじゃないですか。そんなふうに、“文化”として残ってほしいんです。それが究極のサステナビリティだと思うし、そのために何をすべきかを、常に考えています。
一度話し始めると段ボールへの愛情があふれ続け、童心に帰ったように、様々な段ボールを次々に紹介してくれた島津さん。お話を伺った日から、街のそこかしこにある段ボールへ自然と目がいくようになった。彼の「今あるものを最大限に活かし、楽しむ」精神は、これからの時代に必要とされているものに間違いない。
Text by 岸野 恵加












