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“かわいくない女の子なんていない”ーー『姫ギャル パラダイス』から見る盛り髪文化と多様性

2025.01.19
2000年代の『ちゃお』は、よりエンターテインメント性に拍車がかかり、華やかな連載が続いたが、その中でも『姫ギャル パラダイス』が記憶に残っている読者は多いだろう。
2009年に連載開始した『姫ギャル パラダイス』は、地味な女子高生の立川姫子が「姫ギャル」の男子・美神とちおとめと出会い、“おしゃれ”を目指して奮闘していくストーリーだ。
とちおとめの輝くような美しさと、前向きな言葉の数々は、当時の読者たちに強く響き、その共感は令和の今もSNSで語り継がれている。
時代の先を行く『姫ギャル パラダイス』は、どのようにして生まれたのだろうか。今回は作者の和央 明先生に、当時のファッションやカルチャーとともに、作品にまつわる貴重な話を聞いた。

PROFILE

和央 明(わお あきら)

愛知県出身。 2005年、小学館の『ちゃおDX』春号にて掲載された「ハイカラ恋らんまん」でデビュー。以後、『ちゃお』で「姫ギャル♥パラダイス」「特攻サヤカ☆夜露死苦」などを連載。 2017年に女児を、2019年に男児を出産。現在、WEB『ちゃおプラス』にて毎週「ギャル漫画家がママになりました」を連載中
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斬新な設定で話題になった『姫ギャル パラダイス 』が生まれた背景

『姫ギャル パラダイス 』1巻9P(©和央明/小学館)
現代では、「メイク男子」も一般化されて久しいが、本作の連載当時、美容に関心の高い男子キャラクターという設定は、少女漫画界でも画期的であった。
多様性という言葉とともに個々の価値観が尊重される現代とは異なり、『姫ギャル パラダイス』の連載当時は、まだそうした意識が浸透していない時代だった。その一方で、「ギャル文化」が華やかだった時期でもある。
このような背景の中で、『姫ギャル パラダイス』はどのようにして誕生したのだろうか。
「当時の担当編集者から、ギャルの漫画を描いてみないかと提案されたのがきっかけです。『もっとはみ出してほしい』と言われまして(笑)。
私自身、当時は髪を『名古屋巻き』にしていたギャルでしたので、そのままのイメージで描いてみてはどうかとアドバイスを受け、『姫ギャル パラダイス』の連載が始まりました。
実は、『姫ギャル パラダイス』の『姫』は思いつきだったんです。当時は『ギャル』というワードがあちこちで使われていたので、そこに『姫』をつけてみたらどうだろうと考えてつけました」
『姫ギャル パラダイス 』連載時の2009年前後は、ギャルが細分化した時代でもあった。
90年代に誕生したコギャルから数々の変遷を経て、2007年に「姫ギャル」が誕生した。
「姫ギャル」が従来のギャルと違う点は、ボディラインを強調したファッションではなく、ロリータファッションのような甘い雰囲気で、ピンクやかわいいアイテムを好むところだ。
また、メイクも髪もより派手に「盛る」が基本で、その華やかな存在は、世間で話題になった。しかし、『姫ギャル パラダイス』はそれとは別のところから「姫ギャル」にたどり着いたというから驚いてしまう。
「当時は、『小悪魔ageha』が流行っていた時代で、ギャルも進化していたとは思うのですが、私は『姫ギャル』というジャンルをまだ知らなくて。
黒ギャルの時代は通ってきていましたが、姫ギャルは後に知って、それからは『小悪魔ageha』を参考にしていました」
『姫ギャル パラダイス』に登場する「盛り髪」は、単なる髪型以上の存在感を放つ。
見開きページいっぱいに描かれる壮大な「盛り髪」は、そのインパクトとともに、本作を象徴する名物シーンとなっている。
「作中に登場する盛り髪も『姫ギャル』の存在をまだ知らないときは、本当のお姫様をイメージして描いていました。それこそ、マリーアントワネットのような大きな盛り髪です。
のちに『小悪魔ageha』を参考にしつつも、カニや自分の好きなものも頭にのせて描いていたので、工夫して漫画のコマに収まるようにしていました(笑)」
『姫ギャル パラダイス』1巻P119(©和央明/小学館)
そして、『姫ギャル パラダイス』の魅力を語る上で、とちおとめのファッションは外せない要素だ。
華やかに着飾るとちおとめの姿に、多くの少女たちが憧れを抱いたことだろう。1話のストーリーの中で次々と展開される衣装の数々は、まさにファッションショーさながらの華やかさを見せた。
その魅力的な衣装はどのように生み出されていたのだろうか。
「とちおとめの衣装は、先にベースとなる衣装を考えてから、3ページ後はこの衣装を着せよう、といった具合に制作していきました。
私自身、とちおとめの衣装を描くことが楽しみで、多いときは5パターンほど衣装を変えていました。衣装が変わるたびに、アクセサリーや靴も変更するので、当時のアシスタントさんと確認しながら描いていました。
主な参考としていたのは、当時のSHIBUYA109にあったCECIL McBEEやMARSのファッションでしたね」

性別に捉われない、スーパーポジティブなとちおとめの『美しさ』

『姫ギャル パラダイス』6巻表紙(©和央明/小学館)
『姫ギャル パラダイス』には、とちおとめだけでなく、その従兄弟である「あまおう」と「あきひめ」も重要なキャラクターとして登場する。
彼らもまた、とちおとめ同様、クラスの憧れの的となる姫ギャルとして活躍し、物語に彩りを添える存在だ。
特筆すべきは、変身や変装ではなく、純粋な思いで「美」を追求し、堂々と自分らしさを表現する「姫ギャル」という設定が、当時の少女漫画としては画期的だった点である。
「単にかわいいギャルを登場させるだけでは物足りないと考え、『姫ギャル』を男子キャラクターに設定しました。
その後、多様な姫ギャルを描きたいという思いから、あまおうとあきひめというキャラクターが生まれていきました。
当時は直感的に決めた部分もありましたが、とちおとめの「姫ギャルであり男性である」という個性を姫子たちに隠すような設定は避けたかったんです。
自己表現としての姫ギャルという部分は、特にこだわりを持って描きました」
姫ギャルの際のとちおとめは、派手な装いでありながら、芯の強さが滲む目元が印象的だ。
普段の男子の姿も端正な容姿を持つが、周囲に寄り添うポジティブな言葉と「姫」としての華やかさ、そして凛とした格好良さが絶妙に調和している。
そんなとちおとめのキャラクター造形について、意外な事実が明かされた。
「とちおとめは、参考にしたモデルというのは特にいないのですが、あまおうのルックスに関しては、2009年頃の松本潤さんを参考にして描いていました」
『姫ギャル パラダイス』7巻P123(©和央明/小学館)

好きなファッションを自分らしく楽しむ、ハッピーの魔法

『姫ギャル パラダイス』1巻P96(©和央明/小学館)
「自分と一生つき合っていくのは自分だよ」「女の子はとにかく笑うだけでスゲーかわいいってオレは思う!!」など、『姫ギャル パラダイス』には、とちおとめの名言や各キャラクターのポジティブな言葉が詰まっている。
今でも、作中の言葉に励まされる読者が多いのは、和央先生の経験から生み出されている言葉だからでもあるという。
「とちおとめの言葉は私からの言葉でもありますし、私を励ましてくれた人の言葉でもあります。
私の家庭は教師一家で叔母も教師だったのですが、『100点の子はいない。マイナスに勝る、いいところがあればそれでいいんだよ。』と教えてくれました。
作中の言葉は、叔母だけではなく、仲の良い漫画家さんや、今まで出会った方の言葉の積み重ねでもありますね。
手を差し伸べてくれた人の言葉に私自身が救われたので、読者にそれを伝えて同じように救えたらうれしいだろうなと思って作品に取り入れていました」
とちおとめの言葉は、突き放すのではなく、寄り添ってくれる愛のある喝の言葉だ。

作中の姫子に自分自身を重ねた読者も多いだろう。人は自虐的になっているときに、喝を入れられると余計に怯んでしまうところがあるが、とちおとめの愛のある喝は、読者の心に響く。
「私自身が学生時代は暗かったので、とちおとめの喝は後悔しているところからもきています。
当時は自分に自信がなかったので、その時の自分に聞かせるような感じですね。
私は、学生の頃からかわいくなろうとせず、本当は着たいかわいい服を着なかったことの後悔からの反動でギャルになった人間なので、学生時代にとちおとめのような人に喝を入れて欲しかった思いも込めていました」
当時、『姫ギャル パラダイス』に憧れていた読者は、今は社会人として活躍している世代でもある。
時代が変わっても、SNSで『姫ギャル パラダイス』が話題になる背景には、仕事や恋愛で悩みが多い世代が、作中のポジティブな言葉や底抜けの明るさに勇気づけられるからだろう。
『姫ギャル パラダイス』7巻P174(©和央明/小学館)
最後に、大人になった読者たちに向けて、和央先生から素敵な言葉をいただいた。
「今でも『姫ギャル パラダイス』が読者の心に残っているのは、本当にうれしいですね。
当時、『ちゃお』を読んでいた小学生も大人になって色んな悩みがあると思います。
友達からの受け売りになりますが、恋愛や仕事も、結局は自分が笑顔になれないとダメです。心にギャルを…という格言が流行りましたが、心に『とちおとめ』を、です!(笑)」
2000年代の『ちゃお』を明るく彩った『姫ギャル パラダイス』。現在でも当時の読者を始めとして、世代を超えて愛されているのは、姫ギャルたちの可愛さとともに読者が元気になれるというのに他ならない。
自分に自信がなくなった時はぜひ『姫ギャル パラダイス』を読んでほしい。好きなファッションで突き進む、最強の姫ギャルとちおとめの言葉がきっと心に響くはずだ。

ヘッダーキャプション:『姫ギャル パラダイス』1巻表紙(©和央明/小学館)

Text by Tajimax

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