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妖怪に「化ける」コスプレ──変身願望の究極系【妖装】界隈の発生と変遷

2026.04.03
ファッションの楽しみの根底には「変身」がある。服をまとうことで、自分ではないものになれる。では人は、どこまで変身できるのか? 今回の愛着はコスプレの中でも極めて特殊なジャンル「妖怪コスプレ=妖装(ようそう)」の界隈を取材した。
「鴨コス」黄檗宗大本山萬福寺 Model:Sigma Photo:泥パン氏
妖装コスプレイヤーSigmaさんと、妖怪イベントを20年以上続ける百妖箱代表・河野隼也さんに話を聞いた。和装・アニメ・特殊メイクなどが絡み合った“妖怪に化ける”ファッションの源流は、日本古来の儀式に通じている──。

PROFILE

Sigma(しぐま)

「妖怪」をテーマとする創作系コスプレイヤー。太秦映画村「怪々YOKAI祭」アンバサダー、大阪・関西万博「大江山酒呑百鬼夜行」出演など。妖装グループ「幽幻怪社もののけ本舗」座長。

PROFILE

河野 隼也(こうの じゅんや)

妖怪面クリエイター。2005年に妖怪芸術団体「百妖箱」立ち上げ。京都を拠点に「一条百鬼夜行」、嵐山本線・北野線「嵐電妖怪電車」、太秦映画村「怪々YOKAI祭」など多数手掛ける。CSエンタメ~テレ『妖怪とあそぶ』パーソナリティ。

「妖装」20年史の出発点は地元の「町おこし」

太秦映画村「怪々YOKAI祭」Photo:稲田大樹 ©百妖箱
──2005年。百妖箱・代表の河野隼也さんが「妖怪」活動に巻き込まれたのは、まったくの偶然だった。京都の美術大学の大学院で「地域の民間伝承を観光に利用できないか」というリサーチをしていた河野さんは、一条通にある「大将軍商店街」が“妖怪の仮装行列”を計画しているという新聞記事を見つけ、取材に向かった。
「大将軍商店街は、妖怪が徒党を組んで行進する『百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)』の伝説が残っている場所なんです。話を聞くと、実は企画はしたけれど誰も実行できる人がいないと言われ、大学の仲間を募って手伝うことにしました」(河野さん)
コスプレとも仮装とも無縁だったが、記録や伝説にある妖怪画や民族衣装の仮面などを参考に、独学で妖怪のかぶりものを作りはじめた。
「山姥(やまうば)」河野さんが製作してきた妖怪面は50体以上。Photo:稲田大樹 ©百妖箱
こうして、商店街と美大生グループ「百妖箱」による町おこしイベント「一条百鬼夜行」がスタート。数百年の時を経て、妖怪が地元に再来した。
「一条百鬼夜行」 ©百妖箱
初回の参加者は30人、ほとんどが大学の後輩だった。2006年にmixiを始めると、コスプレをしている女性2人組から「参加できませんか?」とDMが届く。2007年に烏天狗の衣装を自作して現れた2人が行列に加わったことで、妖怪仮装とコスプレが初めて交差し「妖装」界隈が誕生した。
妖装のプレイヤーたち。 Model(左から):シスイ、55番、Sigma、りく丸、くろもち、月乃。Photo:泥パン氏 
「古典にある妖怪の再現」あるいは「自身で創作した妖怪であること」をルールに、コスプレイヤーとクリエイターが“化けて出る”妖怪イベントの聖地となっていく。
太秦映画村「怪々YOKAI祭」 Model:Sigma Photo:泥パン氏 
一方、Sigmaさんは自分でオリジナルキャラクターを考えてなりきる「創作コスプレ」を愛してきた。「人外——人間じゃないものに変化するキャラクターデザインは、コスプレ界隈にも豊富にある」と言う。そんな彼女が妖怪に出会うのは2023年11月。友人に誘われ京都の「伏見百鬼夜行」に参加したことがきっかけだ。初めての百鬼夜行で衣装に着替えて控室を出た瞬間、来場者に囲まれた体験が決定的だった。
太秦映画村「怪々YOKAI祭」 Model:Sigma Photo:泥パン氏
「アニメや漫画のコスプレって、カメラが向いている間だけキャラクターなりきるものがほとんど。でも妖装は、イベント中ずっと『妖怪』として扱われるんです。変身願望の一番深いところが満たされる、最強の存在になれる遊びだと感じました」(Sigmaさん)
「妖怪を見て、子どもが喜んだり、泣き叫んだりする。そのリアクションに刺激されて、さらに動きが妖怪っぽくなって、また反応が返ってきて──お客さんと妖怪が相互に異世界を演出していけるところが面白いし、すごく古来の“祭り”的だと思います」(河野さん)
嵐山本線・北野線の電車を貸し切って行われる「嵐電妖怪電車」©百妖箱
そもそも妖怪とは、日常空間に突然現れるもの。妖装が屋外型のコスプレイベントに進化していったのは、民俗学的にも必然だった。

お面・角・着物──尖りまくる「妖装アイテム」

Model(左から):Mi-ko、おかめ、シスイ Photo:泥パン氏
『ゲゲゲの鬼太郎』のみならず、近年は『鬼滅の刃』『呪術廻戦』などの影響を受けて異形のキャラクターが注目を集める。河野さんは、「日本のアニメや漫画では過去の妖怪に見立てて設定が作られているものも多い。それが注目されると同時に、本家本元の妖怪もまた知られていく」と語る。
「天狗」 Photo:稲田大樹 ©百妖箱
その魅力に触発されたクリエイターが続々と参入する。ここからは「妖怪に化ける」ファッションアイテムを見ていこう。
もっとも象徴的なアイテムが「お面」だ。河野さんの妖怪面は視界と呼吸の確保という実用上の制約の中に、怪異のエッセンスを落とし込む。
「ぬらりひょん」は『後頭部が長いおじいさん』という要素だけを継承し、デザインはオリジナルに。 Photo:稲田大樹 ©百妖箱
「能・狂言などの伝統芸能や少数民族の仮面のデザイン要素を入れています。妖怪の顔だからこそ、まるで『昔からこのかたちであったように』感じてもらえたら」(河野さん)
『お面のかしま屋』の面をつけたプレイヤー Model:鬼平太 Photo:夢幻
妖装シーンをリードするファッションデザイナーたちもいる。
「『お面のかしま屋』さんの半面は、緻密な彫り込みですごく美しいです。また『角』も欠かせません。作者の『梅吉』さんは妖装界隈のレジェンド的な存在です。ハンドメイドの角は接着剤で額に取り付けたりカチューシャのように頭に載せたりと、さまざまなタイプがあるんです」(Sigmaさん)
「土蜘蛛」の妖装 Model:梅吉(夏梅 万依) Photo:Hyde
恐ろしく、美しいあやかしの存在を目指して......。コスプレ自作勢の創意工夫が爆発する妖装界隈だ。特撮でも見られる特殊メイクのテクニックが駆使される。化粧は白塗り・隈取りなどの日本化粧の要素も取り入れた独自のスタイルだ。
Model:飛沫 Photo:Hyde
「着物はリサイクルで手に入れることが多いです。昭和期の派手で奇抜な柄、汚れやシミがあっても、サイズが合わなくても、むしろ妖怪には似合います」(Sigmaさん)
古着の着物やゴシックロリータブランドのタイツ、スペインのハンドメイドのショールなどを組み合わせる Model:Sigma Photo:ヒロシ
古着市場で価値がつきにくい着物が妖怪アートに再活用されているとは考えてもいなかった。さらに現代の和装ブランドも人気だ。
平安装束をモダンにアレンジした「MISAMARU」の着物 Model:Sigma Photo:カヂワラ
「日本の伝統服である着物を現代のファッションに取り入れているブランド『MISAMARU』のアイテムは、和の要素を取り入れつつ、洗えるポリエステル素材や暖かい羽織もあって、屋外で動き回る妖怪にとってはとても助かっています」(Sigmaさん)
そうして生み出されたのが多種多様な「オリジナル妖怪」だ。
Sigmaさんのオリジナル妖怪のひとつ「八穢(やえ)」 Photo:泥パン氏
「『亀姫(かめひめ)』『嫦蛾(じょうが)』『八穢(やえ)』など、伝承を自分なりに解釈して物語を考え、オリジナルの妖怪を作りました。私の他にも、独自に作り上げた妖装を楽しむプレイヤーは界隈にたくさんいます」
「赤大将」さんの妖装 Photo:Hyde
妖怪は基本的に著作権フリー。だからこそ想像を広げ「化ける」自由がある。日本古来の妖怪というフォーマット、そして妖装というファッションシーンはどこへ向かうのか?

全国妖怪ネットワークと「インターナショナル百鬼夜行」構想

河野さんが主催・協力する妖怪イベント「伏見妖怪酒祭」Photo:稲田大樹 ©百妖箱
言語を超えてビジュアルで楽しめる妖怪イベントはSNS映えも抜群で、コロナ後にはインバウンド向けとしても大好評のイベントになった。
「『一条百鬼夜行』は毎年2,000〜3,000人の来客数に成長し、安全確保のため一時運営を休止せざるを得ない規模になりました。もはや日本全国で妖怪を盛り上げていくべきタイミングが来ています」(河野さん)
妖装の聖地「一条百鬼夜行」多くの観光客で賑わう ©百妖箱
河野さんは現在、京都・太秦映画村のリニューアルに妖装の仲間を引き連れ、全面協力している。Sigmaさんもアンバサダーに加わった。
©太秦映画村
さらに大阪・堺、小豆島、広島・三次、徳島・三好など、妖怪伝承を持つ地方が妖怪振興に手を挙げる。主催者たちが連携すれば「日本全国妖怪ツアー」ができるかもしれないと河野さんは話す。
大阪・関西万博で開催した「大江山酒呑百鬼夜行」Photo:稲田大樹 ©百妖箱
そして、次の一手は台湾だ。河野さんは妖怪30体とともに渡台を計画している。
「日本の妖装のフォーマットを伝えることができたら、台湾でも同じようなムーブメントが起きるんじゃないかと。そうなれば、妖怪を通じた異文化交流が実現できる」(河野さん)
大人も子どもも妖装に参加できる。©百妖箱
そう、オカルティックな存在は世界中にいる。「いつか世界の妖怪が集まる、国際的な百鬼夜行を」。それが河野さんの野望だ。Sigmaさんも、「妖装のプレイヤーみんなで海外に出ていきたい」と話す。
太秦映画村「怪々YOKAI祭」。妖装プレイヤー:うるめいわし、くろもち、シスイ、月乃ほか。Photo:泥パン氏
「異形のもの」への愛と畏れは、人類に普遍的な感覚だ。伝承を読み解き、ビジュアルに変換し、それを「身にまとう」ことで、人と人がつながり界隈が生まれる。
京都の商店街から始まった「妖装」は、いまや国内外へと広がりつつある。それは「化ける」という行為を通じて他者と関係を結び、歴史を蘇らせるファッションのかたちなのかもしれない。

写真協力:株式会社百妖箱、幽幻怪社もののけ本舗、太秦映画村、京都下鴨茶論

Text by GANTAN

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