2011年にリリースされたトレイルランニング用シューズである
ニューバランス「610」。現在、街ではトレイル系のシューズが隆盛を極めている。もちろん、同ブランドが誇る名作「610」もそんなトレンドを受け、にわかに脚光を浴びている。そんな「610」がどのようにして生まれ、今なぜ再注目されているのか。その理由をスニーカーシーンのキーマンであるミタスニーカーズのクリエイティブディレクター国井栄之さんに伺った。
アウトドアアクティビティ向けに開発された「610」
「2002」や「1906」、そして「860」と幅広い世代から支持を集めている「ニューバランス」。その中でも今注目すべきモデルがある。それが「610」だ。このモデルはトレイルランニングのエントリーモデルとして2011年に登場した品番。昨今では「コム デ ギャルソン オムや「ジョーフレッシュグッズ」などとのコラボも記憶に新しい。そのモデルが生まれた歴史について国井さんはこう語る。「『610』はトレイルランニングだけではなくライトハイク、ウォーキングそしてアウトドアアクティビティなど幅広く使われていたモデルです。元々は『MT610』という品番がベース。それにテッキーな素材を採用するなど現代的なアプローチを施し、タウンユース用にリインベントして、ファッション層にもスニーカーヘッズにも両軸へアプローチしたのが、今回のメインとなる『ML610DE/DG』です」
大きな特徴となるのは武骨な印象のソール。本来はトレーニングシューズだったが、昨今オフロードランニングがフォーカスされるなかで、アウトドアアクティビティにも対応するべく、近年のトレンドに寄せた作りとなっている。
「注目すべきは、カラバリを変化させていくだけではなく、スリッポンモデルに変えたり、ガード(防護)部分にTPU素材を用いて圧着部分もシームレスにしたりなど、デザインをがらりと変えてバリエーションを見せているところですね」
国井さん曰く、「ニューバランス」らしいアプローチの仕方が、「610」の人気を定着させているのだそう。
「ニューバランス」らしいアプローチの巧みさが人気の秘訣
現在、街のスニーカー状況を観察していると、トレイルランニング系のリリースする『サロモン』が隆盛を極めている。「610」がなぜ今人気なのかという現象に対して国井さんはこう説明づける。「もちろん、数々のブランドとのコラボモデルの影響や“ゴープコア”という潮流もあるとは思いますが、『610』はただそこに乗っかった、オリジナルの二番煎じというわけではありません。『610』という品番を大事にしているからこそ『ニューバランス』のマーケティングの巧みさが際立ってくるのです。
ここ最近の『ニューバランス』を見ていると、『610』みたいに定番化させたいモデルがあるとして、先ほども説明したようにただ単純にカラバリを展開するだけでなく、モデルバリエーションも、アッパーの製法も手を加えているのです。現在、若年層にも人気が定着した『2002』のアプローチの仕方に似ていますね。
アーカイブの人気に胡坐をかいた色替え素材替えで販売していく商品群が多いなかで、『ニューバランス』は時代に鑑み現代的なアップデートを施すというところから、このシチュエーションで履いてほしいという意図が、デザインはもちろん素材使いやカラーリングからも明確に受け取れるのです。
あとはコロナ禍以降、着心地や履き心地などが快適なものに流れる傾向がありました。『610』はバリエーションが豊富なので、多様性が増してきたスタイルにもどこかでハマるモデルが用意されているし、汎用性も優れているのは強いですよね」
時代の流れを読みつつも、ひとつひとつの品番を大事にしているからこそ生まれる「ニューバランス」ならではのマーケティングの仕方なのだ。