2021.04.22

森永邦彦:ファッションが変わる瞬間、進化のためのテクノロジー

#インタビュー特集:衣服/身体環境の現時点:作ること・纏うこと・届けること
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テクノロジーの進化や地球環境の変化によって目まぐるしく変化する、私たちの衣服/身体環境。そんな今日におけるファッションの「作ること・纏うこと・届けること」とは、どういった状況にあるのでしょうか?Fashion Tech Newsリニューアル記念特集として、衣服や身体をとりまく技術的/社会的状況の変容について、また、そこから描きだされる未来像について、5名の方々へのインタビューから考えていきたいと思います。

PROFILE|プロフィール
森永邦彦

ファッションデザイナー。早稲田大学社会科学部卒業。大学在学中にバンタンデザイン研究所に通い服づくりをはじめる。2003年「ANREALAGE」として活動を開始。ANREALAGEとは、A REAL-日常、UN REAL-非日常、AGE-時代、を意味する。東京コレクションで発表を続けた後、2014年よりパリコレクションへ進出。現在はパリでコレクション発表を続ける。2019年フランスの「LVMH PRIZE」のファイナリストに選出。2019年度第37回毎日ファッション大賞受賞。2020年 伊・FENDIとの協業をミラノコレクションにて発表。2021年ドバイ万博に本館の公式ユニフォームを担当。

今日のファッション文化、および衣服や身体を取り巻く環境

コロナ禍で失われたもの

コロナ禍になって僕らのものづくりの方法も変わりました。パリに行って発表することもできなくなり、直接産地とやり取りすることもできずリモートになってしまいました。普段であればトワルを作って行う仮縫いの作業を全て3Dに変えて、それによってある種の距離は縮まり、ある面では今までにないもの、新しい伝え方ができた。

今までファッションの世界では起こらなかったことが急激に生じて、 変わっていく瞬間であるなと思いつつ、その中で失われているものが確実にあって。ひとつはフィジカルで感じていた洋服自体の重さ、その重力が、画面上のコミュニケーションでは失われている。先日発表したばかりの「GROUND」というコレクションでは、コロナ禍で失われたものを感じさせるようなコレクションをやりたくて、ファッションの王道であるランウェイと客席を天井に設置し、本来天井にある照明を床に設置することで、空間自体を変容させて、まるでモデルが天井を歩くようなコレクションを行いました。

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ファッションではないものがファッションになる瞬間

今回コラボレーションしたPITTA MASKが登場したのは3年前ほどで、当時のコレクションにも協賛で入っていただきました。その当時はまだ、マスクをしてファッションショーを見たり、マスクをして道を歩くというのは日常ではない光景で違和感がありました。それがコロナ禍になって、みんながマスクをすることが当たり前になった。全くファッションの要素ではなかったものがアクセサリーと近いような、スタイリング要素のひとつになっていたり、自分の個性を表現するファッションとしての機能を持ちはじめている。マスクをつけてランウェイを歩くというのは今の日常における日常と非日常の境界線を探るような行為だと思っています。

今まで身につけていなかったものを当たり前に身につける瞬間とは、 身に付けるもの自体が変わるだけではなくて、街の景色さえも変わっていくでしょうし、日常自体が変わっていく瞬間だと思っています。ファッションではないものがファッションになる瞬間を、今、目の当たりにしている。全く違う分野にあるものがファッションの領域に入ってきた時に、新しい機能を纏う瞬間が訪れるだろうし、人の生活も変わると思っています。例えばメガネをかける行為がファッションとして当たり前になるように、それが人の感覚自体も変えるものだと感じています。

最先端テクノロジーの普及と、衣服や身体をめぐる状況

ものづくりを進化させるためのサイエンスやテクノロジー

僕が洋服を作り始めたのは2000年代初頭なのですが、その頃は手でパターンを引いて、店舗で洋服を買って体験するというのが当たり前でした。途中から世界がふたつに分かれて、物質的ではないECの世界でファッションを伝えて、ファッションを買うという行為が当たり前になっていきました。先端的なテクノロジーに着目したきっかけは、その中でものづくりがどう加速的に進化するかっていうことを考えたからです。今までに使われていない道具を使って洋服を作らないと、本当に新しいものは生まれないのではないかと思い、全く別分野にあるサイエンスの技術であったり、バイオの技術を洋服の中に取り入れようとしました。

人間の感覚はテクノロジーに順応する

10年前と今では、身体的な感覚が変わってきていると思います。新しいツールが生まれる時に、人はそれに順応して感覚を変えられる能力がある。10年前は自分が小さな画面の中で洋服を買うなんてことは考えられなかったですし、想像もできなかったけれど、今ではその画面を見て、洋服の質感やサイズ感を感覚的にわかるようになっている。それは人間の方が、テクノロジーに順応して、感覚が追いついてきていると思います。

僕ら自身もこの1年、実際にサンプルのトワルを組んで、モデルにフィッティングをしてというのを一切やめて、完全に3Dでシミュレーションを行い、洋服のパターンを作ってバーチャルでフィッティングをするという制作方法を取り入れました。今まで等身大で、手で布を触って修正していた部分を、画面の中でマウスで布をつまんで修正していかなくてはならないので、最初は全くしっくりこなかったのですが、1年続けているうちに、3Dで作るものと実際に生まれてくるものの差がほぼないレベルまで感覚が追いついたと思います。今までとは全く違う感覚で服を作っている気持ちにはなっていますね。

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テクノロジーとの出会い方、そこでのコラボレーション

まだファッションになっていないものが好きです。ファッションから遠い技術であればあるほど、向こうから歩み寄るようなアプローチは来ないので、自分で調べて、直接そのドアをノックしています。この技術を染料に変えられないですかとか、この技術で糸をつくることは可能ですかとか、こちらから積極的にアプローチをします。その中で形になるのは3割ぐらい。様々な分野の情報を見て、こんな面白い素材が他分野では出来上がっているんだとリサーチしています。

最初にコラボレーションを始めるときは、事業にはならないので、課外活動として始まることが多いです。課外活動として業務提携して、その中でR&Dをくり返して、今のように5年6年と続けていると、それがFENDIのようなメゾンに使われたり、課外活動の域を超える瞬間も訪れる。

作り手の研究者の方々は熱意があります。積極的に、異業種の方々とのコラボレーションは行うようにしていて、映画であったり、建築であったり、感覚の違いを持っている方だったり。どこにでもファッションは必ずある。僕はファッションの世界の中にいて、その視点でしかファッションを見ていませんが、見る視点が変わればファッションの見え方も変わる。同じものでも、全く別の視点から見るということが好きなので、あえてファッションの外にいる方々とやるようにしています。

テクノロジーを織り込んだ服を纏うこと

テクノロジーを取り入れた服は、日常で着てはじめてその面白さが伝わることが多く、 例えば色が変わる洋服であれば、その日の天気によって発色する服の色が変わりますし、同じ洋服を着ていても、東京にいる時とパリにいる時では、違う色に変わります。光があたらない部分は、色が変わらずに残るので、影を認識できるなど、日常では気づかないことを、洋服が教えてくれます。服を通じて今まで自分の見ていた景色が変わるということを体感されている方も多いです。

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これから挑みたいこと、機能と装飾の両軸から

つくったことのない洋服のジャンルは気になります。例えば子供服とか。子供は性別も体型差もないですし、大人とは異なる低い視点で世界を見ているので、とても気になります。

また今回の「GROUND」コレクションを通じて、未だにデータで伝送できないものとして触覚や質量があるので、偽触覚や質量の伝達にはとても興味があります。2018年の「echo」プロジェクトなど、いくつかトライもはじめています。「echo」では今までの知覚では感じとれなかった新しい感覚を身体に纏うことができるので、例えば遠くのものを触っているような感覚であったり、人が知覚できない微生物のような小さなものや、遠く離れた天体のようなものも、洋服を媒介として身体感覚で感じ取れる可能性があります。服をきっかけに、新しい感覚が生まれるようなことができれば本望ですが、このように人間の身体の感覚を、長いスパンをかけて洋服で変容させていくことは、ファッションが果たせる大きな役割だと思います。

ただファッションにおいては、自分がどんな服を着て1日を過ごしたいか、または、自分の目の前の景色に強い服を纏った人が現れて、何かそのまわりの景色が変わるような体験があって、それは今お話ししたこととは別軸にあるファッションの魅力です。ファッションが持つ潜在的な、「自分を変えたい」とか「あの服を着たい」という欲望と、長いスパンで身体の機能を拡張していくという展望は、交わらない軸でありながら、その両方を追い求められたらと思っています。

10年後のファッション、衣服を着用すること、私たちの身体の在り方

重みのあるファッションと重みのないファッション

昨年はコロナで世界が分断されて、 物質的なファッションだけではなく、実体のないバーチャル上で纏うアバターであったり、ゲームの中で纏うものであったり、 形なきファッションが加速的に生まれてきた1年だったと思います。重みのあるファッションと重みのないファッションが入り乱れ、重みのないファッションもこれから市場として大きくなっていくだろうなと思いました。

その一方で、ファッションが元々持っていた「この服を着て誰かと会いたい」とか「みんなで集まった時にこの洋服を着ていたい」とか、フィジカルなファッションの強みが、この先また戻ってくると思っています。原点にまた戻る形ですが、それが新しく感じる時代が訪れるのではないかと思います。

人を守るための衣服

もともとファッションは身を守るためにあったので、今のマスクもそうですが、自分の身を守るという意識はコロナ禍が終わったとしても続くと思います。今のファッションには無い、メディカルな技術が入った洋服が日常的になるかもしれない。服を着ているだけで安心して日常を過ごせるのであれば、 それ以上のことはありません。

今はまだ、ファッションで人を完全には守れていない。いくらマスクをしようとも不安は残ります。これから、人を守るというファッションの原点に立ち戻った装いが生まれるといいなと思っています。

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Photo by Yoshikazu Shigetomi

#Virtual Reality#Virtual Fashion Show#Wearable Device#Smart Textile
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